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05 庵side (風紀)

 明らかに嫌そうな顔をして、鷹司はあからさまに俺から顔を逸らした。さっきまで生徒会室を見ていたくせに、今は向かいの校舎に背を向けている。 「……ちっ」  鷹司は軽く一回舌打ちをして、観念したのか静かに目を閉じた。いちゃ悪いかよ、といつもの悪態が出て来ないのは、少なからず……いや、酷く羽柴のことが気になっているからだろう。  向かいの校舎にある生徒会室の窓からは、今日もパソコンに向かう羽柴の姿が見えた。キーボードを叩く指はスムーズで、体調はもう本調子であることが(うかが)える。  書類と画面を見比べながら、羽柴はペットボトル入りのお茶やおにぎりを片手にカチャカチャやっている。  午前中はあんなに晴天だった空に、昼休みの今は鈍色の雲が広がっている。雨の予感を感じているだろうに、鷹司がそこから動く気配はなかった。 「もう飯食ったのか?」  敢えて鷹司が聞きたいであろうことを避け、どうでもいいことを口にする。聞きたくて仕方がないくせに、鷹司は一向に口を割らない。  鷹司の隣に腰掛けて、俺は鈍色の空を見上げた。この時期の春雨特有の冷たい雨は、最近は湿気を含んだじめじめしたものに変わっている。 「そろそろ生徒会主催の新歓や、寮の方でも歓迎会があるな」  何気ない様子でそう言ってみると、鷹司の肩がぴくりと跳ねた。 「うちとしても全面的に協力するし、まあ頑張ってよ」  鷹司が聞きたいであろう羽柴の容態や倒れた時の様子を一切口にしないまま、俺はそう言って屋上を後にした。 「……んとに。意地っ張りが」  屋上に続くドアを閉め、階段を下りる。廊下から窓の外を見ると、いつの間に降り出したのか窓ガラスが雨に濡れていた。  鷹司はまだ屋上にいるんだろうか。帰路は同じなのに、振り返っても鷹司の姿はない。それよりいい加減素直になってくれないと、このままじゃ羽柴が壊れてしまう。  半日近くぐっすり眠った上、一晩ゆっくり寝たからと言ってまだ油断は出来ない。今の状態は十分に睡眠をとったから一時的に体調が回復しただけで、このままこの生活を続けていたら間違いなく羽柴はやられてしまう。  昨日は保健室と自室で睡眠を十分にとっただけで、病院で診て貰ったわけでもないし。仕事を全て羽柴に押し付けるだなんて、どんな理由があろうと端から間違ってる。  鷹司が駄目なら他のメンバーだとばかり、今度は学食へと足を向けた。

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