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14 要side (書記)

 それから一時間後に、ようやくメンバー全員が揃った。それまで静かだった生徒会室が一気に騒がしくなる。だが、まあいつもの光景だ。 「会長、どうしたのさ。土日は休みだってそう言ってたよね?」  そう言ったのは庶務の日下部で、休みの日くらいはゆっくりしていたいのにと頬を膨らませた。  ふと皆が集まる前の静けさを思い出し、羽柴はいつもあの静けさの中で仕事をしていたのかと今更ながら思い知る。誰もいない生徒会室はシンと静まり返り、いつもは全く聞こえない空調の音がやけに大きく聞こえた。  そんな中、羽柴は休日も返上で、あまつさえ門限ぎりぎりの深夜に及ぶまで仕事をしていたはずだ。 「鷹司……?」 「あ、ああ。悪い」  副会長で、幼なじみでもある椿野の声に我に返った。 「ぼーっとするなんて鷹司らしくないな! 疲れてるなら寮に帰って休んどけよ。俺達が鷹司の分も仕事をやっとくから! そのための仲間だろ」  佐倉はいつもの大声でそう言うと、俺の背中をバンバンと平手で叩いた。羽柴はどんな時もたった一人で、黙々と仕事を熟していた。  それは羽柴が前会長から今年度の会長に任命されたからで、それは去年一年間、きっちり会長補佐の仕事をやり抜いたからで……。 「かいちょ、だいじょぶ?」  普段、滅多に声を出さない庶務の不知火(しらぬい)にまで心配されてしまった。不知火はその大きな体と睨みを効かせた三白眼に似合わない繊細な心の持ち主で、佐倉は不知火が偏見の目で見られて傷付いていることを一発で見抜いた。  佐倉は総長時代の自分もそうだったからよくわかると不知火の懐に入り込み、酷い人見知りの不知火の心を鷲掴みにした。佐倉は少し馴れ馴れしすぎるところもあるが、総長時代に培った仲間意識と強調性、仲間を統一する力を含めたカリスマ性は大きな武器になる。  佐倉は羽柴の解雇後に入って来たメンバーだが、佐倉も今となってはうちの生徒会には必要不可欠な人材だ。だとしたら……。 「佐倉、皆も聞いてくれ。今日は元会長で、リコールが通って解雇された羽柴のことについて話がある」 「ちょ、かいちょ!」  日向が慌てて止めに入ったが、これ以上、俺は黙っていられない。 「佐倉。仕事をサボっていたのは羽柴じゃなくて俺らの方で、羽柴は俺らの分も含め、たった一人で生徒会の全仕事を熟していたんだ」 「……は? 鷹司、なに言って……」 「それから生徒会室にお気に入りの親衛隊員を連れ込んで、毎日乱交パーティーをしてるって噂は全くのデマだ。そもそも羽柴には親衛隊もなかった」 「え……」  他のメンバーは俺の話に顔面蒼白で、 「そ、そんな。俺は無実の人間をリコールしたのか……?」  佐倉は初耳だろう今回の件の真相に固まってしまっている。 「羽柴が会長になったのは、羽柴が去年一年間、会長補佐の仕事をきっちり熟して、前会長から会長に任命されたからだ。うちの学校には次に会長を任せる生徒を一年生の中から選び、一年間、会長補佐として生徒会の仕事をみっちり叩き込む風習がある。俺は羽柴より先に前会長から会長補佐の着任を打診されたが、それを蹴って一年間、遊びほうけていたんだ」 「……」 「つまりは、羽柴が解雇される要因は一つもない。前会長から後続を託された羽柴こそ、会長に相応しい人間だ」  6名ものメンバーがいるのに、例によって空調の音が聞こえた。安心しろ。全校生徒から選ばれたお前らには責任取らせねえから。  悪いのは全部俺だ。 「だから俺は柴咲(しばさき)学園高等部生徒会、会長の権限をもって今、ここに宣言する」 「ちょ、待っ……」 「令和×年4月23日、14時39分。不当に解雇された羽柴翼を会長に戻し、現会長の鷹司(かなめ)をリコールする」 「……!!」  会長にそんな権限があるかどうかは不明だが、不当に解雇されたものを取り消すだけだ。 それなら何も問題ないだろ? ※注釈※ 鷹司が宣言している年号は執筆時(2015年)に(なら)って平成でしたが、改正に伴って令和に書き換えさせて頂きました。

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