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03
「じゃあね。羽柴、おやすみ。また明日」
「おやすみ、また明日な。食べ過ぎて腹壊すなよ」
両手にコンビニ袋を下げたほくほく顔の日向と別れ、自室に戻る。
「ただいまー」
槙村と同室だったからか、誰もいない部屋に向かってお決まりの一言を口にするのがすっかり癖になってしまった。
「はあー、疲れた」
これまたいつもの癖でそう言ってしまうけど、実際は以前に比べるとたいして疲れてはいない。今頃、キッチンかダイニングやリビングのテーブルに買った物を広げている日向のことを思い浮かべ、俺は思わず笑ってしまった。
それにしても、短時間で綺麗に片付いたとものだと思う。槙村はまだしも、生徒会のメンバーまで片付けを手伝ってくれるとは思ってみなかった。
他の生徒に比べればそう多くはないだろうけど、それなりにあったはずなのに。友達って言うか、仲間っていいもんだなんて思える日が来るなんて。
コンビニで買った食材をキッチンに仕舞っていると、
「え、また?」
来客を知らせるインターホンが鳴る。
「はいはい」
手を止めて玄関に向かうと、
「あ」
「こんばんは」
「よう」
千客万来。今夜は肇先輩と橘の橘兄弟が、ドアの向こうからひょっこり顔を覗かせた。
肇先輩と橘は一人で篭っていた生徒会室にはよく来てくれていたけど、寮の部屋に来るのは初めてのことだ。
「引っ越しは済んだ?」
「今回は休みがなかったから、まだ片付いてないんじゃねえか?」
「手伝うよ」
「あ、えと。それがですね」
部屋の中に二人を促すと、
「……」
二人は無言で顔を見合わせる。
「もしかして誰か来た?」
「嘘っ、マジか」
「あ、ええと、はい。会計の日向と庶務の二人が昨日」
俺の答えに二人は再び顔を見合わせると、
「よかったね」
肇先輩はそう言って、俺の頭を撫でてくれた。
「肇先輩。よかったら夕食食べてってください。食材注文し忘れてて、今晩は出来合いだけど。橘も」
どうやら先輩は頭を撫でるのが癖のようで、去年も俺を褒めてくれる時には必ず頭を撫でてくれていた。実は俺には激甘の兄が三人いるんだけど、肇先輩のそんなところは兄達を思い出させたりして。
「そう言えば羽柴君、料理するんだっけ。いいの?」
「もちろん。是非食べてってください。簡単なものだけど」
そんなこんなで肇先輩と橘にも、料理を振る舞うことになった。
ロングパスタを茹で、醤油と昆布出汁、溶かしバターを混ぜて簡単なソースを作る。具材は茄子とベーコンを軽く胡麻油で炒めたもので、炒めた具材に茹でたパスタを加え、ソースを絡めて最後に刻み海苔を乗せれば、茄子とベーコンの和風パスタの出来上がりだ。
そして、もう一品。ホットケーキミックスを使ってパンケーキを焼いて行く。トッピングは甘さ控えめの生クリームとコンビニで買った比較的安価な数種類のフルーツだ。
最後に昨日のご飯と鍋の残りにチーズを加え、チーズリゾットもどきも用意した。使った食材はコンビニ食材と残り物だけど、思った以上に豪華なメニューになったかも。
「マジ? これ、羽柴が作ったの?」
「まあ、一応」
「相変わらずすごいね。去年もよく差し入れしてくれてたけど」
思った以上に喜んでくれてホッとした。自分的には食材を注文し忘れていたのもあって、ちゃんとおもてなし出来ないんじゃないかって思っていたから。
二人は俺の料理を褒めてくれて、引っ越しの手伝いが出来なかったことを残念がっていた。二人は俺が孤立していた時から気にかけてくれていたから、もっと早くお礼しとくんだった。
「ところで、新歓はどんな感じ?」
「ありがとうございます。お陰さまでなんとかなりそうです」
「やっぱあれか? 鬼ごっこ」
「いや、あれは安全面を考えて違うのにしたんだ」
「そうか、よかった。あいつらも一応ちゃんと考えてんのか」
「それで、何にすることにしたの?」
「あ、はい。ラブレター企画にしようかと思って」
「「ラブレター?!」」
俺のその一言に、二人は声を合わせてそう言った後、互いに顔を見合わせた。
あれ?
俺、なんか変なこと言ったか?
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