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10 要side (書記)
「ちょ、おまっ、鷹司! どう言うことだよ!」
「うるさい。そう吠えるな」
生徒総会が終わって生徒会室に戻った途端、羽柴が珍しく俺に食って掛かって来た。
会合で熱愛報道について追及されることは予想していたが、自分の口から出た言葉に驚いた。事前の打ち合わせでは羽柴が事のあらましを発表した後、俺が真相を補足するはずだった。
だがしかし、直前になってあれ(寝ぼけたキス)は本当に間違いだったのかと自分の中に疑念が沸く。結果、俺は打ち合わせた言い訳を羽柴に言わせず、俺が一方的に羽柴に惚れているともとれる発言をしたのだった。
「これが黙っていられるか! あ、あんなっ。お前が俺に、その、んなこと言ったら……」
「言ったら?」
「……っっ」
羽柴が顔を真っ赤にしてると言うことは、少しは意識してくれているのだろうか。確かに寝ぼけてやったキスだったが、夢の中では自分の意思で羽柴にキスしたような気がする。
つまりは羽柴にキスをしたくてしたわけで、あのキスは間違いではなかったんじゃないか、そんな疑念が沸いて来たのだ。その証拠に、このまま熱愛スクープがあった方が羽柴に悪い虫が付かないんじゃないかと、そんなことを考えていた。
「その、まるで肯定してるみたいじゃん」
「だな」
「だなって……」
ここに来て一気に、あれこれ自覚した。ボイコット中も羽柴のことが気になってしょうがなかった理由 や羽柴のやる事なす事、全てが気に障 って仕方なかった理由を。
羽柴のことを頑 なに否定していたのは正論を突き付けられてぐうの音も出なかったからだったが、それでも気になって仕方なかったのは、その頃からある意味、俺にとって特別な存在になっていたからなんだろう。
羽柴が壇上に立つ度 にかましている自虐ギャグらしいそれも、一言一句、聞き逃さないようにと静まり返っている生徒達 の気持ちがよく分かる。本人は自虐ネタらしいそれがスベったと思っているだろうが、生徒達は羽柴の発言に聞き惚れているのだ。
俺は自分の発言に影響力があることを自覚しているが、羽柴はそうじゃない。寧 ろ謙遜 しているから苛 ついたが、それも羽柴を意識しすぎていたからで。
「嫌か?」
「な、何が」
「俺と噂になるの」
「……っっ」
他のメンバーが先に教室へ戻った隙を見て、俺達はそんな会話を交わした。しどろもどろの羽柴を前に、俺はいろんなことが腑 に落ちた。
汚れたテディベアをクリーニングに出してまで綺麗にした理由も、それを手元に置いて返せない理由もきっとそうだ。これと言ったきっかけが掴めないからもあるが、恐らく俺はそれを手元に置いておきたいのに違いなかった。
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