34 / 86

夕餉の集い①

 俺達とハロルド様の部屋は扉を挟んでお隣同士、というか大きな一室の脇に小さな小部屋、言ってしまえば控室のような場所がどうやら俺の泊まる部屋らしい。本来ならばライザックとハロルド様がメイン室、使用人である俺とミレニアさんでこの控え室という感じに割りふられていたのだろうけど、俺の様子が気が気でないライザックが俺から離れないので、その小さな部屋で俺は今ライザックに抱きすくめられている。 「もう苦しいって、そんなに抱き締めなくても俺は逃げないよ」 「もう本当に嫌だ、なんでこんな事になっているんだ。すぐ帰ろう、今すぐ帰ろう、私はこんな場所に大事なカズを置いてはおけない」 「そんな訳にはいかないだろう? 親戚付き合いは大事だってお前だって言ってたろ、俺は平気だから……」 「何が平気なものか! こんな事になってもし万が一お腹の子に何かあってからでは遅いのだぞ!」  あぁ、うんまぁそうなんだけど……俺は何とはなしにまた自身の腹を撫でる。何だろうな、この体調不良は悪阻だと分かっているし、医者にそう言われたからそうなんだと納得はしてるけど、俺は未だに現実として自分の妊娠を受け止めきれていないのかもしれない。だって俺は男だし、元々この世界の人間ですらない。なのに妊娠なんてあり得るか? 俺の身体にそんな機能が備わっている事の方がびっくりだ。  元々自分が妊娠する事を想定していない俺は妊夫は通常どのように過ごせばいいのかとかその辺りの事もさっぱりだ。そんな事を考えていたら俺の腹がぐぅと鳴る。  そういえばもうそろそろ晩飯の時間だ。 「ご主人様、夕餉の支度が整ったそうですよ」  部屋へのノックと共にかけられたミレニアさんの声、晩御飯だと思ったら急激に腹が減ってくる。 「だってよ。確か立食パーティだとか言ってたっけ? 俺、腹減った」 「………………カズを人前に出すのは気が進まない」 「俺の見栄えが悪いから?」 「そんな訳あるか!」 「だったら行こう、腹が減っては戦はできない」 「カズはなんでそんなに戦う気満々なんだ?」  情けない声音で俺の肩口にぐりぐりと顔を埋めるライザック、そんなの決まってるだろ? お前をもう誰にも譲る気がないからだって、そのくらい察しろよ。少なくとも俺はお前の気持ちがよそに向く事がない事を確信してるから自信を持って立っていられてるんだろ? そんなお前がそんな情けない顔してんな。  俺が俺の身体に巻き付くライザックの腕を撫でて「大丈夫」と笑うと、彼は大きな溜息を零した。 「私が付いているつもりではいますが無理だと思ったらすぐに部屋に戻る事、極力一人にはならない事!」  「はぁい」と返事を返すとまたしても大きな溜息。溜息ばっかり吐いてると幸せ逃げるんだぞ?

ともだちにシェアしよう!