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ライザックの心情②

「確かにカズの素性に不明瞭な部分があるのは認めます、けれどカズの腹の子は間違いなく私の子です」 「心当たりがあるという事か、慎重なお前にしては珍しい事だね」 「私は最初からカズとの出会いには神の采配を感じていました、だからもう出来てもいいという気持ちで抱いていましたからね……」  ライザックの言葉にハロルドは嘲るような笑みを浮かべた。 「神の采配? は、神だって!? 笑わせる! そんなものはこの世に存在しない、ありとあらゆる事象は全て己の選択次第。そんな不確かな気持ちでお前はあの子を嫁にしようと? 浅はかにも程がある!」 「もし私が浅はかな選択で万が一カズに騙されていたのだとしても、その選択の結果は私が甘んじて受け入れるもの、母上には関係ありません」 「関係ない訳がないだろう? 腹の子の中に流れる血がオーランドルフの血であるのならば、それはオーランドルフの家に関わりのある者全てに関係のある事だ」 「腹の子は私の子ですが、私はその子をこのオーランドルフの呪縛で縛る事はしたくない、する気もない」  ハロルドが瞳を細め「お前は何を言っているんだ?」とライザックを見上げる。 「私はもううんざりなのですよ、こんな名前など私はいつ捨ててしまっても構わない」 「何を愚かな事を!」 「私はその選択を愚かな事だとは思いません。私は今まで黙って母上に従ってまいりましたが、私はこんな張りぼての家名にしがみつく母上こそが愚かであるとそう考えます」 「ライザック!」  今までライザックは母に逆らう事をした事がなかった。父に捨てられ、寂れていく一方の屋敷の中でただ自分(ライザック)の為にと生きている母の苦労も分かっているつもりでいた。だからそんな母の為にも自分は強くあらねばならぬと、それなりにここまで頑張って生きてきたのだ。  けれど違う、母はライザックの事など見ていない、ハロルドが見ているのは自分の手に掴み損ねたこの重すぎる『オーランドルフ』という名前だけ。  気付かなかった……いや、私はずっと分かっていたのだ、けれどその事実に目を瞑りライザックはここまで生きてきてしまった。ライザック自身『オーランドルフ』というこの名前を失えば自分は何処にでもいるただの若造である事を分かっていた。オーランドルフを捨ててしまえば自分の手には何も残らない、そう思い込んでいた。 「この催しの結果がどうなろうと、私の意志は揺るがない。私の妻はカズだけです、それを許さないというのならば私はカズを連れてあの家を出ます」 「!? 何を馬鹿な……」 「私は今までよそに恋人を作り家を捨てて出て行った父を愚かな人間だと思っていました、けれど違う。愚かなのはそんな家にしがみつく母上の方です」 「ライザック!」  母の声に背を向けてライザックは離れた場所で頑張っているカズを見やる。けれど少し目を離した隙に何やら会場の空気が変わっていてライザックは小首を傾げた。  先程まで和気あいあいと談笑していたはずのカズとロゼッタが揉めている? 驚いて歩を進めるとロゼッタがカズの頬を平手で打つ光景が目に飛び込んできた。 「カズ!?」  一体何が起こったのか、ライザックは慌てて駆け出した。

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