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顛末①
「ふぅん」と小首を傾げつつ、ロゼッタさんが何事か少し考え込み「ねぇミレニア、少しバートラム様を借りてもいい?」とミレニアさんに問う。
「? それはどういう……?」
俺達は戦いの真っ最中に騒ぎを起こしてしまったので、すっかり観衆の注目の的だ。ロゼッタさんが少し声を落とすようにして俺達を手招く。
「昔からうちの父はハロルド伯父様の事を気にかけていたんだよ、本来ならば本家を継ぐべきは伯父様で、なのに先代の意向でハロルド様は嫁に出され父がこの家を継いだ。だから幼い時分私がライザックと結婚すると言ったら父はとても喜んでくれたのだよ、ライザックにならこの家を任せてもいいとそう言って、今回のこの催しだって形式だけの物で本命はライザックでほぼ決まっていた……」
そういえば俺達がこの屋敷に到着した時当主は確かにライザックに『見合い相手の大本命』だと言っていた、元々この催しはロゼッタさんのお見合いパーティだったのだけど、相手はほぼ決まってたって事か。
当主やロゼッタさんにとっては俺の存在だけがイレギュラーでお邪魔虫だったんだな……でも、ライザックの意志はガン無視なのは少し可哀想だ。
「悔しいけど、どうやら私はライザックの眼中には入っていないみたいだし、だけどだからと言って君達だけに華を持たせてこの催しを終えてしまったら、オーランドルフ本家の嫡子はこんな催しまで開いておきながらこっぴどくフラれて捨てられたと世間に思われてしまう、さすがにそれは少し困った事態だ。なにせ今回の催しはあくまで私の結婚を決める為のもの、だけど適当な相手を選んでお茶を濁して相手に本気にされても困るのだよ」
「それとバートの貸し出しとの因果関係は?」
「相手は君 でもいいんだけど、たぶんミレニアが相手だととんとん拍子に話が進んでしまうと思うのだよね……」
バートラム様が「ふむ」と頷き腕を組む。
「俺だったら身分上問題ない上に、ミレニアがいるから君になびく事もない。今回のこの事態を収束させる為にはうってつけの人材、と言った所か?」
「まぁ、そういう事ですね」
飲み込みの早いバートラム様は「なるほど」と頷いてるけど、俺はロゼッタさんが何をどうしようとしているのかよく分からなくて首を傾げた。するとくるりとこちらを向いたロゼッタさんに「とりあえず、君は私を殴り返して」と言われ、更に言葉に詰まる。
「私は君を殴った、だから君も返していいよ」
そんな簡単に言われても、俺の身体を心配してくれたロゼッタさんを殴るなんて俺には出来ない。平手打ちされたのには驚いたけど、別に然程痛くなかったし。
「ほら早く! さっさと事を治めないと皆が不審がるだろう!」
ロゼッタさんに急かされるようにして、俺は戸惑いながら椅子から立ち上がり軽く拳を前に突き出した。本当はロゼッタさんと同じように平手で返せば良かったんだろうけど、今、このメンツの中で一番背の低い俺はバートラム様の次に背の高いロゼッタさんの頬を平手打ちするには背が足りなくて届かなかったんだよ。
拳を打ち込んだと同時にロゼッタさんは派手に後方に倒れ込んだ。言っておくけどほぼ力は入ってないし当たってないから、その派手なアクションに俺の方が戸惑ってしまう。けれどすかさず「大丈夫か?」とバートラム様がそんなロゼッタさんに手を差し伸べ、ひょいと彼を抱き上げた。
「ありがとう、優しい方。バートラム様はこのまま私を父上の所まで連れて行って、後は私が何とかしよう」と、ロゼッタさんは俺達にぱちんとウィンクをくれて、バートラム様の首に抱きつくと「親にだって殴られた事はないのに」とめそめそと泣き真似を始めた。
ロゼッタさん、めっちゃ演技派だな……
ロゼッタさんを抱いたまま去って行くバートラム様、ぽつんと残された俺とミレニアさんとまだ正座のままのライザック。ちらりとミレニアさんの横顔を窺ったらめちゃくちゃ複雑な表情をしてる。やっぱりバートラム様はミレニアさんの婚約者だもんね、2人のお陰でものすごく俺は助かったんだけど、なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいだよ。
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