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閑話:熊さんの昔話⑧

 俺を殴りつけた酔っ払いは口よりも先に手が出るタイプのようで暴れ回って手が付けられない。殴られた痛みで頭に血が上り一発殴り返したら倍になって返ってきた。 「お前何なんだよっ!! このクソ親父!! 俺が一体何をした!」 「うっせぇ、ガキが夜遊びなんざ生意気なんだよ!」  酔っ払いに言葉はまるで通じない。尻尾を巻いて逃げるのははっきり言って癪に障るが何もしていないのに痛い思いをするのも真っ平だ。この酔っ払い、腕っぷしはやたらと強く抑え込めないと悟った俺が逃げの体制入ろうとした刹那、酔っ払いの身体がふわりと浮いて派手に壁に叩きつけられた。 「っ……」  何が起こったのか分からない俺が目を白黒させていると、そこに立っていたのはミレニアで俺は目を見開く。どうやら酔っ払いはミレニアによって投げ飛ばされたようで壁に寄り掛かるようにして気を失った。  俺は今の一瞬では何が起こったのかよく分からなくて酔っ払いとミレニアを交互に見やると、そんな俺の視線に気付いたミレニアは気まずげな表情を見せ、何も言わずに踵を返した。  本当にこいつはいつも何も言わない、まるで逃げるように立ち去ろうとするミレニアを俺は慌てて追いかける。 「待て、ミレニア!」 「………………」 「待てって、俺に礼のひとつも言わせない気か!」 「……っ、別に礼など必要ない」  尚も歩みを止めないミレニアを追いかけ腕を取ると、思い切り激しく振り払われた。だが、激しく拒絶し過ぎた事に気付いたのか、またしても気まずげな表情でミレニアは瞳を逸らす。 「本当に礼など必要ないから……この辺は夜になるとあの手の酔っ払いが闊歩する、気を付けろ」  それだけ言ってミレニアはまたしても行ってしまおうとするので、俺もまた慌てて追いかける。 「なんで逃げる!」 「私の事が嫌いなのだろう? 礼の必要はない、私に関わるな」 「解せないな、お前は俺の婚約者だろう?」  瞬間ミレニアの表情が強張って「そんな事思ってもいないくせに」とぽつりと呟いた。 「確かにこれは親が勝手に決めた事だが、一応名目上その約束は生きている」 「反故にしてくれて構わない、私の方にもその気はない。お前なら誰でもよりどりみどりだろう?」 「まぁ、それはそうなんだが……」  瞬間またしてもミレニアの表情がくしゃりと歪む。ミレニアにこんなに感情が見える事など滅多にないので、俺は驚き思わずその顔を覗き込んだ。 「見るな」 「婚約者の顔を見るのに何故許可がいる?」 「だから婚約は破棄でいいと……」  腕で顔を隠すようにしてミレニアは頑なに俺の顔を見ようとしない。 「こんな醜い容姿ではお前だって見るに堪えないだろう?」 「は? 誰がそんな事を?」 「皆言ってる、半分人の姿の私など押し付けられてお前もさぞ迷惑しているのだろう? 遠慮はいらない分かっている」  泣き出しそうな表情のミレニアにきゅんときた。なんだお前、そんな顔もできるのか? いつもツンと取り澄まして、どこか他人とは違うという雰囲気を醸し出していたはずのミレニアが意外にもとても可愛い。 「別に俺はお前を醜いとは思わない」 「え……」 「そもそも種族が違うのだから容姿が異なるのは当然だろう?」

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