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「なに言ってんの? 先輩が振って俺が飲むんでしょうが。なんのためのプリンシェイクですか」 「俺のためじゃねェのかよッ!」  俺のために買ってきてくれたのかと言い募れば、キョトン、と首を傾げられ、俺はうがあッ! と吠えつつ頭をガシガシとかきながら再度パソコンに向き合う。  こうやって三初が俺でことあるごとに暇を潰すために、俺自身の仕事が規定時間で終わらないのである。  本当に、それでノーマルな仕事が三時間残業なのだから、その頻度は推して知るべしだろう。  しかも毎度コイツは先に帰らず仕事もないのに一緒に残って、めいっぱい揶揄って来やがる。めいっぱい爆裂しろ。  しかし、三初にキレて怒鳴ったところで仕事がなくならないのも事実だ。  もちろん俺を揶揄うためだけに毎度居残る質の悪い後輩もなくならない。……なくならねぇんだよ。 「貸せ」 「ん」  なくならないならさっさと終わらせるべしとした俺は、背後にゴゴゴと闇を背負いながら、鬼の形相で三初の手からプリンシェイクの缶を奪った。  嬉しそうにホクホクと缶を手渡すその顔は、こうなることをわかっていたという余裕しかない顔だ。  俺が折れる前提とかマジふざけんな。弾けて死にやがれゲス野郎。 「バーテンダー風ですよ」 「っせぇな……!」  さっさと缶のてっぺんを覆うように片手を添え、もう片方をサイドに添え、俺はシャカシャカと怒りのシェイクをキメた。  茶番終わらせて仕事片付けて、直帰即自分の部屋で存分に酒でも飲んでやらァ……! 「うお……ッ!?」  ──が。  そんな俺がシャカシャカと振った瞬間、手のひらとシャツにブシュッ! と無残にもドロドロとしたプリン液が飛び散るなんて……誰が予想したのか。 (……は?)  予期せぬ出来事に、俺は呆然とした。  今なにが起こった? え? プ、プリンを俺はただ振っただけなのに、なにが……?  飛び散ったプリン液は缶を伝い、シャツとスラックスに濃厚な甘い香りを振りまきながらボタ、ボタ、と重力に従って俺の腹あたりを汚していく。 「……ば、ばくはつ……?」 「ぶっ」  自分の身に起きたことが信じられず理解もできなくて、混乱が滲んだカタコトな声で、弱々しく呟いた。  すると後ろからいつの間にか隣に回ってきていた三初が吹き出す。  笑われる筋合いはない。  それほど混乱しているのだ。不意打ちに弱い俺の性質が露呈した結果である。 「あーあ」  三初は呆然とする俺の手から缶を奪い、プリン液塗れの手をぺろりと舐めた。  急に肌を舐められ、ついピクッと体が震える。三初は俺の言葉に呵呵と笑った。 「なぁんでジュース一本でそんな大惨事になんの? いっそ才能ですね。しかも宣伝企画課の狂犬・御割がそんな間抜けな顔でばくはつ? って……クククッ。爆発してんのは先輩のオツムでしょ」 「なぁ頼むからちょっとオツム爆発して死んでくんね? 少しでいいんだわ。頼む。ほんと死んでくれ」  非常に愉快そうな後輩に反射的に本心が露呈してしまったが、仕方ないだろう。  この場に他の誰がいようとも俺を支持してくれたに違いない。  俺の言葉をへとも思ってない後輩は缶を机に置き、ニヤけた口元を手のひらで覆って隠したつもりになってニヤニヤと笑う。  それが余計に腹立たしくて、俺は掴まれっぱなしの手を乱暴に振り解き、そのまま指の間を垂れるプリン液を自分の舌でペロペロと舐めてとりあえず垂れないようにした。 「あ? ……間接キスかよ。デリカシーのない鈍感は怖いなぁ」 「あ? なんか言ったか」 「いーえ」  手を舐めていると三初がなにか呟いたが、聞き返すと軽い返答が返ってくる。  プリン液に濡れたシャツを摘んで怒りを燃やす俺にはその本心を解読できなかったので、なかったことにした。

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