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同じ昨日の今日なのに俺への扱いがキレている三初に背を向け、洗面所に向かった。
トイレを済ませてから眠気を覚ますために顔を洗い、少し伸びたひげを剃る。顔を洗っても目が覚めたとは言っていない。
体力はそこそこ回復しているが、あちこち軋んで気だるさが残っていた。
あと変な寝癖もついている。用を足す時変な感じがした。スゲェ眠い。
うん。俺の身に起こる全ての不幸はたぶん三初のせいだ。そうに違いない。
まだ若干寝ぼけた頭で冤罪極まりない発言をしながら、身奇麗にしてからフラフラとリビングへ戻った。
グゥ、と鳴く腹をさすりつつ、言われたとおりレンジの上から三初お手製のお食事を持ってくる。
断じて餌ではない。お食事だ。……なんだその顔。
なにが「奇抜なヘアセットですね」だ。鏡を見なかったわけじゃねェ。見た上で直せなかったんだよ。ほっとけ。
「……んぁ? これなんだ?」
「ひとくちロールサンド」
「なんでタワーになってんだよ」
コトン、と二人がけの長方形のテーブルに持ってきた皿を置き、席に着く。
皿には一口ロールサンドなるもので、三段重ねのタワーができていた。
ご丁寧に赤いリボンで二段目、三段目が巻かれている。耐震設計とは、気の利く後輩だ。
「いやテメェ女子か」
「俺が女子に見えるなら先輩ヤバイですね」
「いつ起きてどうしてこうなった、あほ、ばかが」
「罵倒にキレがない……つまんねー」
「死ねぃ」
殴ろうとしたがすぐに避けられ、キレ方が生ぬるいと捨て置かれた。
まったく、コイツがいると俺は朝から落ち着いて飯も食えない。なにかとちょっかいを出してくるし、無視をすると数倍執拗に絡んでくる。
野菜、チーズハム、ツナマヨ、そしてフルーツクリームにチョコレート。
素敵なラインナップのロールサンドは食欲をそそったので、一番上のツナマヨをヒョイとつまんだ。
パクン。意気揚々と食す。
「〜〜〜〜ッッ!?!?」
──が。
突然襲いかかってきた鼻にツンとくる異常な辛さに、俺は声もなく悶絶し、そばにあったコーヒーを一気に飲み干した。
ぼやぼやと残っていた眠気が一発で飛ぶ強烈な刺激に、目尻に涙が滲む。
これはあれだ。ツナマヨ──じゃなくて、ツナわさびだろッ!
「み、三初ェェェェ……ッ! お前これ、これ……ッ!?」
どうにか苦いコーヒーでわさびロールを無理矢理飲み込み、鼻と口を手で覆いながら三初を睨む。
「や、眠気覚ましにいいかと思いまして。純粋な善意ですよ」
「百年の眠りも覚めるわッ! 眠り姫でも目玉ギラッギラになるわッ!」
「ほー。眠り姫じゃないのに目玉ギラッギラな凶悪フェイスがここに」
「よしわかった。テメェの眼球に直でわさび塗ってやる」
「いいですけどそれやったらケツにジョロキアぶち込みますね」
「報復がガチ過ぎんだろ!」
睨まれながらキレられていても、なんのそのだ。
暴君は素知らぬ顔でテーブルに肘をつき、俺の顔を見上げてクククと笑う。キレる俺がアホみたいじゃねェかコラ。
グルル、と唸りつつも不毛な気がして、俺は残りのロールサンドをクンクンと嗅ぎ、警戒しながら食べることにした。
マジでこいつは理解不能だ。
「クックック、犬みてー」
「噛み殺すぞ」
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