70 / 415
15
──プレイバックマウス・店内。
「な、ん、で、お、ま、え、が、い、ん、の!」
中都の働くメンズ向けセレクトショップ、プレイバックマウス。
土曜日ということもあってそれなりに賑わう店内で、休憩時間なのか社員証を外した中都が、三初を見るなりワン! と吠えた。
「え、逆になんでいないと思ったんだよ」
「普通いないと思うかんねっ!? お呼びじゃないし、センパイ置いて帰れし。シッシ!」
「そう? じゃ、俺ら帰るから。あとこれ誘ったら俺が来るって覚えとけな?」
「もう忘れましたー」
「じゃあな」
「いやいや待て待てっ! それ返せしっ! 言動行動常イミフじゃね? マジ日本語通じないんですけど〜!」
「まず俺をこれとかそれ扱いやめろやテメェら」
デジャヴ。
あの日と同じように俺を挟んで猫とポメラニアンがニャーニャーキャンキャンと言い合いを始め、俺の目から光が消えていく。
帰れと言われた三初が俺の腕を掴むから、中都が余計にムキーッと拗ねている。
こういう時は「俺のために争わないで」とか言って割り込めばいいんだろうが、むさ苦しい男三人、そんなラブコメテンションじゃねえしな。
こいつらは俺を取り合うのが目的なのではなく、理由は知らんが相手が気に食わないので、お互いに喧嘩を売る理由を暫定俺としているだけである。
だってそうじゃねーとおかしいだろ。
開幕ファイトだぞ。こんにちはより先に言い合いが始まったぜ。
まぁ厳密には言い合いというか、一方的なものだ。中都が圧倒的劣勢だったりする。
負けん気が強く口の悪い俺がいつも言い負かされてしまうくらいには我がブレない極悪サディストに、当然ながら小粒なポメが勝てるわけがなかった。
「やめろと言われましても。俺のものを俺がどう呼ぼうが俺の勝手ですし」
「俺のものを!? てめーそりゃ戦争だべ!?」
「いやもう戦うな中都。お前にこの大魔王は荷が重い」
まるでブレない三初に食ってかかる中都を諌めつつ、周囲をチラリと盗み見る。
前回と違って客の邪魔にならないように事務所前でだが、やっぱりと言うかなんと言うか、さっきからチラチラと視線を感じるのだ。
カップルの片方が彼氏に「あの茶髪の人かっこいいヤバイ」と言って「俺のほうがかっこいいだろ」「やだもうたっくん」とイチャイチャ。
レジの店員が二人「あれが八坂さんのセンパイっすか?」「目つきやべー背ぇ高ぇってか八坂さんイケメンとなんで喧嘩?」「さあ?」とコソコソ。
そりゃあ、俺の目から光がなくなってもおかしくねぇだろ。
「いいや、センパイは黙っててくださいっす! これは三初と俺の戦いすから!」
「別に戦う気ねーから帰りましょうか。ほら三分過ぎましたよ先輩」
「だ、か、らッ! 戦わなくていいし三分ルール適用しないっつってんだろッ! テメェらいい加減俺の話を聞けッ!」
「おけです!」
「三行でお願いしますね」
くそ、同じイエスなのになんでこんなに違うんだ。殴りたい。
ピシッと敬礼のポーズを取ってヘラリと笑った中都に対し、三初は対照的にしれっといつもどおりの澄まし顔で制限を設けてきた。
俺はハァァ……、とわざとらしく深いふかーい溜息を吐く。
昔と今の後輩だがあまりに真逆で扱いにくいことこの上ねぇな、チクショウ。
それでも俺は先輩なのだ。
「なんでいちいち尖るンだよお前ら。反抗期かよ。中都、俺を呼び出した用を忘れんな。んで三初、喧嘩すんなって昨日言っただろうが。わかったらキビキビとやること終わらせろ。そして俺にワッフルを食わせろ」
「うっへ、生真面目で世話焼きなくせにわかりやすくて本音がだだもれぇ。マジブレねぇっすわ。修介センパイのそゆとこ大好きッス!」
「さっさと行け!」
「うひっ、いっだ!」
ヘラヘラとなにが嬉しいのか俺の発言にデレる中都に強めのデコピンをお見舞いすると、キューンと鳴いて事務所の中に逃げていった。
ともだちにシェアしよう!