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23(side三初)

 ムカつく先輩にムカムカしていると、事務所のドアが勢いよくバンッ! と開き、中から八坂が出てきた。 「センパイ〜! お待たっす!」  あーあ。全く待ってないし、戻ってこなくてよかったんだけどね。  封印されて出てこなきゃよかったのにね。もちろん冗談、だけど。  けど先輩の反応からして、八坂とは本当になにもなかったんだろうし。  虫除けも振ってあるから、あんま心配しなくてもいいか。めんどくさいし。  そう結論付けた俺は、事務所から出てきた八坂に視線を向ける。  俺にはないかわいげをたたえたアーモンドアイと視線が合った。  その目は挑戦的な鋭さをたたえ、敵対心をはっきりとぶつけてくる。  とはいえ後輩扱いしかされていないポメなんか相手にならないだろう、と興味なく視線をそらした瞬間。 「いや〜俺センパイに似合う服ちゃんと選んだんですけど、やっぱ実際着てもらって決めんのがイイ気がするんすよね! なんでウェルカムトゥ事務所〜!」 「あ?」 「は」  宣戦布告の声が聞こえた。  そらした視線を、元に戻す。  八坂が掴んでいるのは、考え事をしていたはずの先輩の腕だ。  八坂はその腕をグイッ、と引いて、事務所の中に素早く連れ込もうとする。 「あ、休憩の子たちは外行ったんでダイジョーブイっ! 早く早く〜」 「ちょ、オイ押すなよっ、なんでもいいしわかんねぇって、ああもう、ったく」  そしてあれよあれよと連れ込まれたバカ犬の呆れた声を最後にバタンッ、とドアが閉まりきり、その向こうから、ガチャン、と鍵を閉める音がした。  閉まる瞬間、べ、と舌を出したポメが口パクで言ったこと。 『ちょっと手ぇ出しただけのお前より、オレのほうがセンパイのことわかってっから』 「ふーん……言うじゃねぇの、腹黒ポメラニアン」  無意識に伸ばしかけた手をそっと下ろして、何事も無かったかのように壁に背を預けた俺は、ニヤリと笑った。  八坂がああことを言うってことは、先輩がまたなにかの弾みでペロッと俺との出来事を話したのだろう。  でなきゃ〝ちょっと手ぇ出した〟というセリフは出てこない。  俺はたまたま後輩になっただけで、ツーマンセルなら入社時からだ。それじゃちょっとじゃなくなる。  でも、プライベートに食い込むほどなら、ちょっとと言える期間かもしれない。別に認めてねぇけど。だからそういうこと。

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