バタンッ、と扉が閉じる。 　薬のせいと仮定してるが体が熱い俺は、抵抗もせず中都に促されるまま事務所内に入った。 　在庫の棚とデスク、休憩用のスペースがあるだけで、事務所の中には中都の言葉通り誰もいない。 　無人とはいえこういうわがままが効く程度には、中都の立場は強いらしい。 「持ち帰りのこともあるんで十着くらいかなーってカンジなんすけど、センパイ背ぇ高いからいろいろ似合うし迷っちゃって～」 　ヘラヘラとなにが楽しいのか上機嫌な中都は、俺を小上がりの休憩スペースに押しやって、あれこれと服を持ってくる。 　しかし靴を脱いで上がった俺には、ドッサリと置かれたそれらの善し悪しがてんでわからない。 　あ、モッズコートはいる。でもＴシャツは種類多いし正直どれでもいい。強いて言うならカラシ色か？ 　デザイナーたちが卒倒しそうな体たらくである。 　中都はあれこれと尻尾をフリフリ説明してくれるが、右から左だ。あーようは服だろ、服。うん。 　服を運び終えた中都がウキウキと小上がりに上るのを見つつ、さっさと直感で選ぶ。 　まぁ、なんというか、あんまアイツ待たせるとあとが怖いしな。変なことしてきやがって……結局機嫌直ったのかわかんねェし。 　そんでこのゾクゾクする火照りの理由、問い詰めてやる。 　ゼッテェアイツの仕業だ。暖房じゃ効かねぇぞ、鬼畜野郎め。 「おー。ありがとよ。っても俺オシャレとか最低限しかわかんねぇから、適当に選ぶわ」 　内心で怒りに燃えつつもはぁ、と熱い吐息を吐き出し、壁にもたれかかってダラリと体勢を崩す。 　なにかおかしいって自覚したら、中都に返事をするので精一杯になってきた。 　様子がおかしいのをバレないよう、素知らぬ顔をするのに苦労する。 「うわ出た、マジもったいね～っすから！　草食系とかロールキャベツとか言いますけど、筋肉好きの女もワイルド男好きの女も一定数いるんすよ？　俺の愛するセンパイなら地下都市の野犬顔でもありよりのありっす！」 「誰の顔が犬界のアウトローだテメェ」 「その顔っす激コワっす。ほらほら、ゆーてまだ枯れてないんすからバンバン食っていきましょ～？　てか男は三十からスよ！」 「バーカ。最近は全然女とシてねぇけど今は仕事して独身一人暮らしで充実してっからそんな気もねぇし、そこまで飢えてねぇよ」 　ノリの軽い中都にお世辞を言われ、笑いながら軽くいなした。 　そっち方面は女としてないってより、どっかの誰かがいるせいだけど。 　……いや、ハマってるんじゃねぇぞ？　抱かれるのが気持ちいいのが悪い。 　俺が男として終わってるわけじゃねぇ。やろうと思えば普通に女も抱ける。はず。 　いつの日かバキバキに砕いてしまった男の沽券を惜しむ気持ちがムクムクと湧き、俺は持っていたＴシャツを引きつった笑みで服の山に戻す。 「え、マジすか？」 「？　おう。マジ」 　そんな俺の反応に、中都はキョトン、と目を丸くした。 　あ？　なにがそんなに不思議なんだよオイ。シモはバリバリ現役だわ。今は別に気分じゃねぇだけだぜ。 「修介センパイ、女じゃないなら……」 「っん、……っ？」 　スッ、と横から手を伸ばされ、不意にうなじをなでられてピクリと体が跳ねた。 　そのまま吐息がかかりそうなほど近づく中都の顔が、ムスッと不機嫌そうに歪められる。 「こんなとこ、どこの誰に首輪つけられたんすかね？」 「はぁ……？」 　いくらか低い声でそう言われ、俺は反射的に自分の首に触れたが、そこには当然なにもなかった。 　いや、首輪なんかどこにあんだ？