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「うるっせぇぞ中都っ! だから勝手にギャーギャー騒がねぇで人の話を聞けッていつもいつも言ってただろォが!」 『せぇんぱぃぃいっ! だって、だって顔に似合わず律儀なセンパイが俺のメッセを一日放置するなんて、なんかあったかと思うじゃないすかぁぁぁ〜……っ! 機械音痴も極まってスマホの使い方忘れたのかなって!』 「顔に似合わずは余計だコノヤロウ。ただ風邪引いて寝込んでただけで、今は全快してるから元気ハツラツだかんな」  どうやら中都なりに心配していたようで、叱りながらも大丈夫だと伝えた。  心配かけたのは申し訳ねぇからな。 「そんなハツラツな俺になにか文句があんのか? あ?」 『やっややっ! お、俺はかわいいと思うっすよ!? まじで! スタンプ送るのに苦労してたのも!』 「脳みそイカれてんのかテメェ。俺のなにがかわいいって? もう一度言ってみろコラ。膾にする」 『すんませんっしたっ』  だが、それとこれとは別だ。  病み上がりのざらついた喉で重低音を出すと、通話の向こう側からゴンッ! となにかをぶつける音と、矢継ぎ早な謝罪が聞こえた。  ケッ、土下座するくらいなら初めから普通にしてろってんだマヌケが。  悪意なく失言が多すぎるぜ。 「……先輩、要件聞いて早く終わらせろください。腹減ったって言ってるでしょ。ね」 「は? …………オイ中都。詳細は省くが俺の目の前に悪魔がいる。さっさと要件を話せ」 『へっ?』  しかしそんな俺のパワーアップした唸り声すら凌駕するひたすらに冷えた声が、ふと隣から発せられ、冷気の源を把握しようと顔を上げた俺は素早く目を逸らした。  ヤベェ。悪魔が空腹のせいで、不機嫌になってやがる。  言葉の端々にトゲが垣間見えて、普段と変わらない澄まし顔が直視できない。有無を言わせない微笑みを浮かべている時はどんな暴挙に出るかわからないのだ。  なので俺は威圧感に従って、ちゃんと中都を急かす。 『そだそだ! 用事ねっ、センパイ怒ってないなら今日俺ん家来ねぇすか?』 「うわっ……!?」  が、どういうわけか三初は俺をドンッと突き飛ばし、ベッドに後戻りさせた。  あぁっ? な、なにすんだよ、このサイコパス野郎── 「え、え? お前ん家?」 『? そっす! 昨日約束したっしょ?』 「まぁな、っちょっ、待てコラっ」  内心で悪態を吐き混乱しながらも、中都に〝わかった〟と言って話を終わらせようとしたが、今度は俺の上に覆いかぶさった三初によりヒョイッとスマホ本体が奪われてしまい叶わず。  しかも奪ったスマホは俺の目の前でスピーカーモードにされ、手の届かないベッドの端へ投げられてしまった。  待て待てっ、う、嘘だろ……!? 「おい、三初てめぇ……っ」 「だって、ズルいでしょ。俺が先じゃないですか? ご褒美貰うなら。ね?」 「っん、ぅ……!」  小声で抗議をするが、体勢が不利すぎて抵抗がままならない。  三初の手はなにを考えているのか、スウェットをズラして、俺の股間を下着の上からなでる。 「ふっ」 『センパイ? あっ、まだ病み上がりだからしんどいんすか! じゃあ俺がセンパイの家に行くっすよっ。結構近いし!』 「い、や、いやいいっ、あとで行「集中して」ぅひっくっ……!」  バッ! と反射的に口元を押さえた。  あとで行くと言って電話を切らせようとしたのに、それをなぜか遮った三初。  俺の足を軽く左右に開く三初により、くったりと縮こまった愚息は下着の上から柔らかく刺激し続けられ育っていく。 「ん、ん……っま、離せ、電話させろ……ッ」 『? おーいセンパイ、センパイー? あれぇ〜? 微妙に音聞こえんだけど返事なし……電波悪い系?』 「そ? じゃああとで」 「アホかお前、聞こえる……! あっぅ、さわ、触んなって……っ勃つから、っ」 「いんでないの? 困ることないですし聞かせてやればいいんじゃないですかね」 『センパイぃ〜……? って、なんか悪魔がどうとか言ってたよーな? 俺っち大天才では?』  遠くでスピーカーになっているスマホから、不思議そうな中都の声が聞こえた。  急になにも言わなくなった俺を不審がっているのだ。そりゃそうだろう。  ならば早く『なんでもない』と言わなければならない。  けれど俺はそれにまともな返事をする暇がないほど、ジワジワと断続的に責め立てる快感に、苛まれていた。

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