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 最後のセリフ的に、三初が俺を犬扱いしていることについてはたいへん不本意だ。それも駄犬。失礼極まりねぇなチクショウめ。  だけど飼い主を他に持つなと言うなら、独占欲とまでいかなくとも多少は自分のオモチャに愛着があるのかもしれない。  ほら、名前付けちまうと所有欲が湧くとか言うだろ?  いや俺はコイツの所有物じゃねぇけどよ。可能性の話だ。  ソワソワと胸がザワつく。  これはワンチャン、あるんじゃねぇか?  イベントが距離を近づけることもある。  仲のいい先輩後輩。もしくは友人的なものとしてクリスマスを過ごす。  となればいかな性欲魔神の三初と言えど、体以外に興味を持つかもだ。せめて性欲以外の興味を持たせねぇと。  リクライニングを戻してもそもそと起き上がり、肘をついて窓の外を見ているフリ。 「おい三初。お前明日のイブ、片想いの相手とか、デートに誘うのか?」 「は? あー全く。俺そもそもイベント事に興味ないんで、そういう理由でなんかしたりしないですね」 「あ? 嘘だろっ? ……まさか歴代の女にもクリスマスデートしたことねぇとか」 「ないですね。誘われて普通に暇だったら行きますけど」 「ドライすぎるわっ! それ彼女泣くだろ!?」 「はい。泣くかキレるか無視するか。でも大体なんとでもなりますからねぇ……」  どうでもよさそうに呟く三初に、俺は想定内のようで予想外な事実へ面食らった。  いや、確かにコイツは情報を得た上で世間のブームには流されない鉄壁のサイボーグだ。全然有り得る。  だとしても好きな相手を誘いもせず彼女でももてなさないだなんて、マジで顔とスペックオンリーの男である。だから交際が長続きしないのだろう。他称であり自覚ありでコイツは暴君。  しかしこうなると、外のクリスマス一色の世界が立場をなくしてしまうのだ。  惚れた相手と過ごさないらしいのは、まぁ、良いけどよ。  クリスマスという理由にかこつけて「毎年ケーキを買って家でのんびりするから、暇つぶしに付き合えよ」と誘うことができなくなった。  クソ、どう足掻いても俺の筋書きでは動かない野郎だな。屈折大魔王め。  仮にもイベント商戦に関係ある部署に務めてんだから、クリスマスを大いに楽しめってんだ。  ケーキとチキンとシャンパンとで一人クリスマスを謳歌している俺が異端児みてぇだろ。  ここで引き下がるわけにはいかない。一緒に過ごせなくても、なにかこう、結果を残したい。  自宅へ近付く車が止まる前に、どうにか三初をその気にさせなければ。 「プ、プレゼントくらいやるだろ? 好きなやつなんだったら、絶好の機会に好きだってアピールしろよ。普通するだろ」 「……。……はぁ……なんで先輩が俺の恋路を心配してるのか、甚だ疑問ですけどね。マジでアンタわけわかんねー」 「あっ? べっ、つにィ? 後輩の性根が歪み過ぎて相手がかわいそうってだけだ」 「そのかわいそうな相手、は、まぁいいや」 「よかねーよ。言えよ」 「嫌だね」  ンベ、とわざわざ最後の返事だけはこっちを振り向き舌を出す三初。  コノヤロウ。コイツはマジで全知全能が人をコケにすることに特化しすぎだろ。 「だいたいなぁんで俺が誕生日でもないのにプレゼントしなくちゃいけないんですか? そーゆーのいい思い出皆無ですわ」 「なんだよ、ケチくせぇ男だな。相手が喜べばそれでいいじゃねぇか」  前を向いた三初は素っ気なく答え、ハンドルをトン、と指で叩く。  なにが不満なのかわかんねぇ。 「……ちなみに悪い思い出って例えばなんだ?」 「ん? んー……」  ちょっと好奇心が出てどんなことがあったのか尋ねると、三初は興味なさそうな声を上げて、ぼんやりと記憶を辿り始めた。  そして語られるのは、暴君による強烈なプレゼントメモリーだ。

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