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わざと殴られた、俺より四つ年下の後輩。
俺は自分ばかり焦ってずっとオロオロとしているばかりだけど、相手は年下の普通の男なのだ。
途端、こうして話せば話すほど尖った言葉をぶつけられるのが、当たり前のように感じた。
罪悪感で思考が落ち着く。
自分の顎を掴む手に、スリ、と僅かに頬を擦り寄せた。
「っ……」
「三初……ごめん」
ハッとしたように、頬を寄せた手がふるりと震える。
冷たい指先。風邪を引いた時のことを思い出して、やはり甘えっぱなしの自分に罪悪感が高まった。
「…………謝ってばっかですね」
「喧嘩は嫌いだ。悪いと思ったら、ちゃんと謝るさ。これも不快だってんなら、……ちょうど大型連休前だろ。連絡取らねぇから、しばらく俺の顔見ないで済むと思う」
「そうじゃない」
ややあって、いくぶん落ち着いた息を吐く三初は、ボソリと否定を呟く。
擦りついていた手が静かに離れて、身を屈めたままの三初はじっと俺を見透かした。
「なんで怒らないんですか? 俺はね、めちゃくちゃ言ってる自覚があるんです。傷つくセリフを選んで言ってる。今すげーブッ壊れたいよ。体も心も距離を取ろうとする先輩が、俺は心底気に食わない」
「っ、三初……?」
三初は両手で俺の頬を掴み、ゆっくり、言い聞かせるように語る。
「めんどくさい。ガラじゃない。本当は今すぐ両手足縛って部屋に連れて帰って、全部吐くまでいたぶってやりたい。写真なんてお遊びの脅しじゃなくて、二度と逆らわないようにすることもできる。俺にはそれをする力があって、行使できるんだから当然そうしたい。手段を選ぶ数秒すら腹立たしい」
思っていることをそのまま口にしているのかというくらい脈絡もまとまりもなく、端的で断定的な言い方だ。
いつもなら比喩や例えでのらりくらりと煙に巻く三初が、はっきりと今思うことを口にしてくれた。
だけどそれらがあまりに突拍子もない話で、俺に対する感情が読み取れず、キュッと眉間にシワを寄せて困惑してしまう。
「お前がそれほど、俺が気に食わなくて、昨日今日の態度にも、腹が立ってるってのはわかる。でも、縁を切ってしまうってことじゃなくて、ただ時間を置こうって……」
「時間を置くことはただの一時しのぎにしかならない。今言ったこと、本気でできるんです」
「ン」
両頬を包んでいた手がスルリと滑り、今度は首筋をなでて柔らかく脈ごと掴んだ。
聞いた三初の思考はブレーキの壊れた暴走車並みに、予測不可能で制御不可能。
煩わせる俺をいっそ従順にいたぶりたいと言うその思考には正直ドン引きで、だから俺は眉を顰めた。
それほどのことを思われている俺なので、ついに首を絞められるのかと思ったが、振りほどくことはしない。
「嫌がるなら軽い洗脳もできる。昔恩を売っておいた伝手があるから、先輩が俺を憎んで裁判を起こしても勝てますよ。俺は無罪で、あんたを縛る。……ドン引き?」
「ド、ドン引きに決まってんだろ……」
「そう」
淡々とした表情と声。
だけど目をそらさない俺と見つめ合う三初は、キュゥ……と、たまらないように眉を寄せた。
甘い蜂蜜色の瞳の中の俺は、困惑しながらも三初の行動を受け止め、未だに恋焦がれたまま。
「ドン引きしても向き合ってはくれる。だから、……しませんよ」
「……っ……」
ドキ、と胸が高鳴った。
珍しく言葉を選んでいるのか、たどたどしく続く言葉。
「できるけど、したいけど、先輩にはしない。俺は確かに暴君かもしれませんが、ボーダーラインを超えない」
「…………」
「俺は……ただの御割 修介以外になるかもしれないことは、しません。ま、それ以外はしますけどね」
選ばれた言葉は俺に挑みかかってきて、感情の核心以外を俺に伝える。
それだと相変わらず俺にはわからない。
けれど『どういうことかわかるでしょ?』だった三初の言葉に感情が混ざり、今は『お願いだからどういうことかわかってくれるよね?』と、懇願する子どものようなワガママを感じた。
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