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 ま、だから俺が新年会に行こうが行くまいが、三初にゃ関係ねぇってこったぜ。  どうせ今回も行かねぇだろうよ。  なんせ恋人に昇格したにもかかわらず、このマイペース野郎は甘いことなんてなにもしない。  俺をからかって遊ぶことしかしない。  ……改めて、なんで俺はコイツが好きなんだって話だよな。  クソ、俺ばっかだとなんかムカつく。  負けず嫌いがムクムクと頭をもたげ、フン、とそっぽを向いた。  すると腰に絡んでいた足が器用に動き、つんつんと俺を呼ぶ。 「もう行かないって言ったんですけど、締切今週中ですよね」 「あ? まーな」 「じゃ」 「っおあ、ッ……!?」  わざと素っ気なく返事をした。  その瞬間グイッと思いっきり足に力を込められたので、咄嗟にソファーの肘置きを掴み耐える。  腹筋の力で起き上がった三初は、危ないと冷や汗をかいた俺の耳元に、最中のような声で囁いた。 「先輩が行くなら、行こうかな……?」 「ひっ……」  生ぬるい吐息で耳朶の産毛が戦ぐくらい、至近距離で吹き込まれた言葉。  耳が弱い俺はその言葉と吐息でヒクリと息を詰めてしまい、カァッ、と頬に朱が走った。  チュ、と軽いリップ音をたてて耳たぶに唇が触れた後、三初の体はあっさりと離れていく。  ──ちくしょう、からかいやがったな……ッ!? このキス魔が……ッ! 「っテメェ、み、耳はやめろコラ……!」 「あはは。なに、もしかしてドキッとしました?」 「してねぇわッ! 寝言は寝て言えッ! いや寝ても言うなッ! 速やかに永眠しろッ!」  両足を腰に絡められたまま横から笑われた。図星を突かれたのが腹立たしくて、ガオガオと吠える。  すると三初は、子犬を相手取るようにんー? と小首を傾げた。 「なぁに怒ってんです。アンタ俺に甘やかしてほしかったんじゃないの?」 「甘やかすってかしおらしくしろって常日頃思ってんだよこの永年大魔王がッ」  ──断じてッ、甘やかされたいわけじゃあねェッ!  俺は散々裏で上司と板挟みになり、暴君のオモチャ扱いにも耐えている先輩様の仕事を邪魔するなと言いたいだけだ。  言いたいだけなのにちっとも聞く耳持たない三初は、ソファーに後ろ手をついて鼻で笑う。  コノヤロウ全ての挙動でバカにすんな。  せめて声出して笑え。もしくは爆ぜろ。 「十分しおらしいと思いますがねぇ……今日だってオフィスで噛むのやめてあげたじゃないですか」 「ふざけろ。オフィスでは仕事以外すンな!」 「そんなルール会社にないんだけどなー。先輩みたいな人なんて言うか知ってます? 社畜って言うんですよ?」  バシッと癖の悪い足を叩く。  返事の代わりのそれには、器用に足の指で背筋をなぞられて反撃された。 「仕事もいいけど、アンタ最近仕事ばっかでしょ。俺に構うのが最優先なのに、プライオリティを考えてもらいたいもんだ」 「よーしわかった、テメェを葬るのが最優先だな? 鼻からわさび汁流し込んでやる」 「別にいいですけど、先輩にもリットルで流し込みますからね? ケツから」 「なんでテメェはいつもいつも俺のケツに報復すんだよッ! ちょっとは気遣えよ散々世話になってんだからッ!」  画面の中のクリーチャーが咆哮を上げるのと俺が頭の血管が切れる勢いで噛み付いたのが、ほぼ同時だ。  クッションをバシッ! と投げつけ苛立ちのあまり肩で呼吸をする俺に、三初はケラケラと笑うだけ。

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