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 しかし俺が泣きそうなくらい情けない顔で訴えても、三初はじゃあもう許してあげますよ、とは言ってくれなかった。 「せっかくイイコの先輩が持ってきた箱なんですから、使わないと、ね?」 「使わなくていい、嫌だ、三初、俺いやだ、オモチャいや」 「嫌じゃない。さっさとそこから、あんた好みのバイブを一つ取ってください」  一蹴され、俺はしぶしぶと箱を覗き込み何度か三初を視線で伺いながらも、のたのたとした手つきで凶器を吟味する。  その先の展開が予測できているのに、俺を唯一恋愛脳の飼い犬にできる暴君の命令を回避できたためしがない。  こいつはそんなこと知りもしないで無茶ぶりばっかりするんだよ。  片手で持ち上げては落とし、持ち上げては落とし。  俺はそれほど間を置かず、アダルティでグロテスクな道具の中から比較的マシなバイブを選んだ。  嫌な凹凸があるものの一番細くてそんなにゴテゴテしていない、薄い青のバイブだ。 「あらら、そんなので満足できんのかね? 極太プラグ咥えたケツでカマトトぶってるんですか。ちょっと無理あるでしょ」 「も、もう拗ねてない、拗ねてないから、もういいから、っ」 「俺ももう怒ってないですよ。でもこれは別。先輩が勝手に押し倒したんだからヤり方は俺が勝手に決める」 「でもこれ、……っ酷ぇよぉ……っ」  三初はせせら笑ってボックスの中からローションボトルを取り出し、俺に投げつけ、箱を枕の横に粗雑に引きずり避けた。  どちらかというと機嫌がいいくらいなのに、別だと言う。  コイツは本当の鬼畜だ。  サド野郎だ。こんな手の施しようのない男が俺の恋人なのだ。  俺はどうにかしてこの先の命令を回避すべく、足の間で緩やかに存在を保っていた三初の屹立に触れ、コツンと鎖骨のあたりに額を押しつけて懇願する。 「ん? お触り許可してませんけど」 「三初、俺、これ、これがいい、これにする、これ選ぶから、だから」 「あらま。嬉しいチョイスしてくれますね」 「はっ……んぁっ…あ……っ!」  言葉だけで喜んだ素振りを見せられ、直後に背が仰け反って喘いだ。  お返しとばかりに伸びてきた手が緩んだ尻穴に三本の指を突き込み、熟れた粘膜をグチュッ、グチュッ、と引っ掻いたからだ。  襞を擦る指の快感に、少しの落ち着きを得ていた内部は一気に火照りを取り戻してヒクヒクと絡みつく。  しかしその指は、すぐに引き抜かれる。 「ぅく……っ」 「俺の目の前でここにそのバイブ、自分で挿れてください」  そう誘われた直後、ドンッ、と打って変わって突き放された。  おかげで俺は三初の足の間で情けなくへたってしまう。 「俺、三初、三初がいい……バイブなんか、いらね、オモチャは、気持ちよくない、なんでこんなっ……!」 「足開いて。さっさとその堪え性のないケツにローションブッ掛けて、自分で奥までブチ込んで」  ダメ元で言い募ってはみるものの、具体的な指示まで出されると終わりだ。  三初が掴んだバイブを俺に渡してローションボトルを手に取り、フタを開き、ニヤ、とヤニ下がる。 「ちゃんと挿れたら、コレ、もう一回しゃぶらせてあげます。……俺にあんたの誰も見せたことない恥ずかしいところ、見せてくださいよ。ねぇ」 「っ、つめて、ぇ」  そうして誘うと共にバチャッ、と濃厚なローションを頭からかけられ、俺は一瞬粘液にまみれた全身を震わせて息を詰めた。  逆さにしたボトルは空っぽだ。俺の手にあるバイブも当然ローションまみれ。 「うぇ……三初、意地悪ぃ、の……」  酒と官能で火照った体が潤滑油の冷たさで僅かに覚醒したのか、怒りにも似た感情が湧き出し、悪態を吐いた。

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