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「や。いつもこうやって運んでますからね。だって縦に長いから引きずりにくいし浴槽からおんぶしにくいし米俵持ちも横抱きも無理ゲーだしで、腕にケツ乗せて両手組んで足で上げる。最適解」
「アホかボケぇ……っ腹筋に俺の当たってんのキモイだろうし傍から見てもキモイだろうし絵的に大惨事すぎるわ……っ」
「ケツに突っ込んで歩いたらもっと大惨事かな」
「しがみつくのに必死で感じてられるかよっ」
脱衣所に降ろされて水気を拭き取られながら、グルルと唸る。
いつも後処理してる時こんな感じなのか? 嘘だろオイ。
風呂まで入れられることは稀だが、それにしたって知りたくなかったこんなこと。
タオルを奪って自分でワシワシと頭を拭いていると、下着とスウェットが投げつけられる。
あれよあれよとそれを身につけると、自分の髪を乾かしていた三初がさっさと俺の髪も乾かし始めた。
洗面所に置いてあったミネラルウォーターも渡される。たぶんこれは三初が飲む予定だった物。
至れり尽くせりかよ。
悔しいけど楽だな。
三初は散々虐めて趣味に付き合わせるが、トンだ俺の後始末にも、付き合っているんだろう。
──くそ……そういうところも憎めなくて、好きだと思って、ここがどんどん居心地良くなる。
俺だって別に逆の立場なら三初を世話するのはいいんだけどな。
コイツは本気で寝てるところを見たことがねぇ。
俺の出る幕はなかなかこない。
三初はもういろいろ貰っているから俺は俺のままでいいと言うが……俺はなにも、特別なことはしてやれていない。
セックスにおいても、俺が先に打ち止めになるのだ。
中イキさせられているから付き合えているだけで、三初ほどの絶倫ではない。
そう思うとこうして手のかかる俺のどこが好きなのか、皆目検討もつかない。
好きだと言われたいが、その価値が見いだせない。
認めるのは癪である。
でももし三初が俺をセックス関係で気に入ったなら、それを磨いて返すことも辞さない構えだ。
俺は根っから、されっぱなしが性にあわないのだろう。
「はい終わり。もう立てますよね?」
「おー、サンキュ」
「どういたしまして」
カチ、とドライヤーのスイッチが切れたと共に声をかけられ、乾ききった俺の黒く短い髪がさっとなでられた。
礼を言うとワシワシと頭をなでてから、耳の裏、顔のライン、顎の下と手が移動し、まるで本物の犬をなでるように触れられる。
けれど風呂上がりでもすぐに冷えてしまったらしい三初の手は俺の肌より冷たくて、その気持ちよさにされるがままになってしまった。
「まぁ温タオルで拭くだけでも良かったけど、わざわざ丸洗いした理由は……丁寧に手垢を洗い流すことと、やろうと思えばいつでもできるけど? っていうマウントも込み。趣味と実益」
「あ?」
するりと手が離れる。
棚の中にドライヤーをしまいながらニマ、と意味深に笑う三初へ、俺はきょとんと小首を傾げた。
誰に対してのマウントなのか、欠片も理解できない。
とりあえず「俺だってやろうと思えばいつでもお前を丸洗いしてやれるわ」と言うと、「え、ソーププレイ以外ならお断りします」と丁重に断られた。
やっぱり本当に俺が好きなのかわかんねぇなコノヤロウめ。
好きなやつに洗われたら嬉しいもんじゃねぇのか?
どう足掻いても好かれている気がなくなってきた俺は、ムスッと不貞腐れてベッドまで断固歩いて行った。
体に力を込めるとやたらと気だるく熱が籠っているのを実感して、即後悔したけどな。
どんなセックスをさせられたのか記憶がなくてよかったような、複雑な気持ちである。
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