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◇ ◇ ◇
「突然だけど、シュウよ。お前なにか俺に隠していることはねぇか?」
「あ?」
会社から徒歩十分程度の場所にあるうまい定食屋にて。
俺は突然友人にそんなことを言われ、訝しむ視線を返した。
とりあえず食べようとしていた焼き魚定食の塩さばを口にいれ、白米を大きめ一口で食べる。
冬賀の目の前には、安定のそば。ミニ丼付き。
しっかりと咀嚼してゴクリと飲み込む。
温かい緑茶が入った湯呑に口をつけ、喉を潤してほっと一息。
「ンで? なんでそうなったんだよ。これといって隠し事はしてねェぞ」
「いんや。俺にはわかる。お前は俺に言ってないことがあるだろ」
「宛があんのかよ」
「あるぜ。例えばそう、恋人関係、とか」
「…………」
コトン、と丁寧に湯呑をテーブルへ置いた。
取り落としそうになったので、事故を防ぐための措置だ。冬賀はのんびりとそばをすする。
恋人関係。
それはつまり三初のことだ。
そしてそう言われて初めて、俺はクリスマスイブに世話になった(世話もしたが)冬賀にもなにも言っていないことに、気がついた。
というか、誰にも言ってねぇ。
間森マネージャーにしか言ってねぇ。それは成り行き。
もちろん気まずくなって冬賀の湯呑に緑茶を注いでやる俺は、酒に酔わされ中都に吐かされたことなんて知りもしない。
つまり、なんだ。
こう言ってくるってこた、冬賀は俺が三初と付き合ってるって、知ってるんだろうよ。
知ってて普通に俺と三初を見ていたのかと思うと、バレていないと思っていた俺はなんだか間抜けなもんだ。
肩をすくめ、気持ちちまちまと食事を続ける。
への字に口を曲げるのは、改まって説明するのが照れくさくて嫌だという心の現れだった。
「……まぁ、その、お前の思うとおり、付き合ってる」
「ほほーん、やぁっぱりな。まあ三十路目前でできたいつぶりかの恋人、おめっとさん」
「ケッ。ありがとよ」
そういう恥ずかしさの表れでボソボソと肯定すると、冬賀はうはは! と笑い、手を伸ばして俺の頭をガシガシとなでた。それさせてやんの今だけだぞ。
こういうのはなんだか照れくさい。くすぐってぇ。
冬賀の手が離れてから、同じく赤毛の頭をガシガシとなで返す。それにもうはうはと愉快に笑う冬賀は、腐れ縁のいいダチだ。
面映くなった俺は頬の赤みを振り払うように箸を動かし、味噌汁を掻き込んだ。
ここの払いは俺が持ってもイイくらいの気分ではある。友人に明かせて、嬉しさがないこともないのだ。
──そういえば三初は、俺との関係を出山車に教えてやったのだろうか。
ふとそんなことを考えて気になったので、冬賀に知られたことを報告がてら、また今度聞いてみることにした。
三初は聞かれない限り言わないと言っていたが、誰かに言ったとしても俺に言うのを忘れる可能性もある。
アイツ、マジで自己完結の俺様何様三初様だかんな。
俺には事後報告ばっかりで、それすら言わない時は多々とある。
人として大事な機能が搭載されずに生きてきたような野郎だ。
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