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「うし、冒険に行くか。目標、お母さん呼び出しセンターな」 「おうっ」 「おー」  だけど放っておくことはできない。  インフォメーションセンターに届ければ、放送をかけてくれるはず。  その間に歩いていれば、親がショウを見つけるかもしれないだろう。  そうしていざ歩こうとした時のことだ。 「──ショウッ!」 「!」  焦燥に駆られた女性の大声が聞こえて振り向くと、買い物袋を持ってこちらにむかって走ってくる若い女性がいた。 「ッその子私の息子です! か、返してください!」 「うおッ!」 「ふあっ、あっママ、っうわぁあああんっ!」 「えぇ!?」 「ショウ、ごめんねっ!」 「ママぁ〜っ!」  かなり混乱している様子の女性は、ショウの母親らしい。  俺の腕の中からショウを懸命に抱き取るものだから、俺は驚いてしまった。  ショウはショウで迷子から解放された安心感で再度泣き出し、母親の腕の中で大号泣。  一度は収めた騒動もまた泣き声で視線を集めてしまい、俺は眉間にシワを寄せ、一見して機嫌の悪そうな顔になってしまう。  となると、もうだめだ。 「っアナタ、ゆ、誘拐犯っ……!?」 「はッ!? いや俺は違ッ」  狼狽していた母親はなぜか自分の息子を抱いていた男の顔を見て、思いっきり青ざめ、思わずといった具合で逃げ出してしまった。  残されて立ち尽くす俺は、通りすがりの客たちや並ぶ客たちの視線を一身に浴びる。 「え、なに? 子ども泣かせてたの?」 「わかんない。すっごい迷惑そうにしてたから、怒ってたのかも」 「えぇー……言い方ってもんがあるじゃん」  通りすがりの客は途中からしか見ていないので、俺を非難した。  確かに最後だけ見れば俺は子どもを餌付けして攫おうとした、不審者である。  母親が危機一髪、駆けつけたようにしか見えない。癖でしかめた表情が余計に拍車をかけたのだ。  だけど空になった手をギュっと握り締めた俺の気分は、ちゃんと理解しているのに、寂しい気分になった。 「……。あー……お騒がせして、申し訳ありませんでした!」  くるりと振り向き、店に並ぶ客たちに頭を下げ、愛想笑いをする。  遅れて店の中に入ると、スタッフたちは俺から距離を取った。  当然のように、雑務は行われていない。ショーケースのストックはギリギリだ。 (バックの冷凍庫にAストックあんの、入れる余裕なかったのか。全然列さばけてねぇけど、いっぱいいっぱいだったんだろうな)  俺がゴミ出しに行く前と後でそれほど列がさばけていないが、スタッフたちは疲れた様子で仕事をしているのを横目で確認する。  それでもまずは、待たせている客に謝罪をしながら、できるだけ早く対応するのが先決だ。  客前では慌てているように見えないよう気を付けて、俺は仕事に戻る。  頭にモヤをかけることは、全部一時的に追い出した。  やりきると言ったらやりきる。  そうじゃないと、いけない。  だが、背後で鳴った電話を取った時──俺の全ては空回って、終わりを告げた。

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