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 ──翌日。  うちの会社での休日出勤は、個人の裁量で労働基準法に抵触しない程度なら推奨されている。  というより季節的な時期や企画という仕事内容の性質上、波があるのだ。  忙しい時は残業も休日出勤もして働き、一段落して暇になれば有休も緩く取れるし定時帰宅真っ盛り。  もちろんすべからくコンビ替えがあった今の時期は、全員が多忙だというのは言わずもがな、である。  先輩も後輩も関係ない。  課長は常に最終確認と捺印に追われているし、部長も各課へ顔を出して多忙ゆえのミスや問題が起こっていないか目を光らせている。  本来の仕事から降りて助っ人──三初の役職と一時的に交代した俺も、例外ではなかった。  力不足と空回りによる自責の念と自分なりに努力したのに、という憤りを三初と話したことで昇華した俺は、気持ちを切り替えて出社する。  一応今朝はまずやることや、接客スタッフの名前等をマインで送った。  返信内容は、俺が注意すべきこと、だ。  恋人なのにお互い業務連絡すぎて、車の中で笑ったのは内緒である。  ──それもつかの間。  思い出し笑いで緩んだ口元を引き締めつつオフィスのドアを開き、三初のデスクを見た瞬間、俺は絶句した。 「…………」  タワーができている。  普通のデスクに、ではない。  分け隔てなく人様のデスクにプラモや食玩を飾るくせに自分のデスクは常にすっきりとしていた三初のデスクに、だ。  近づくにつれて現実味を帯びるそこには、資料ファイルや書類で、さながら西新宿のオフィス街のような街並みが形成されていた。  しかも俺のデスクへ、当然のように浸食している。  二年ほど前に三初がおもしろおかしく俺のデスクへ飾ったこんがりワンコのガシャポンシリーズが、モニターとデスクの僅かな隙間でギュウギュウ詰めだ。  隣の竹本のデスクも付箋だらけの報告書やメモでいっぱいなところを見るに、俺のデスクで仕事をして両サイドを物置として使っていたのだろう。  周囲で先に仕事をし始めている同僚を見ると、住宅地くらいは形成しているものの、オフィス街を形成しているのは山本のデスクと課長のデスクくらいだった。  同僚たちと挨拶を交わしてから、とりあえずパソコンを立ち上げ、デスクに着く。  なぜここだけ仕事量が多いのかはわからないが、さっさと仕事を熟すべきだ。  ということで、一時的に思考を放棄する。  現実逃避じゃねぇ。  戦略的撤退と言え。 「あぁ、っと……赤付箋、赤付箋……は、ねぇな。黄付箋」  デスク上から黄色の付箋が貼られたビルを見つけ、一番上の書類を取った。  俺に引き継ぐ時、三初が書類や資料、データに貼る付箋は、仕事の優先度によってトリアージしてあるのだ。  赤色が当日、最優先。  黄色はなる早、手が空き次第。  緑色は終わり次第担当者へ回す。  要するに頼まれものだったり、ヘルプの仕事だったり、急ぎじゃないができればやってほしいもの。  今は総括なので、業務外の頼まれもの、ってことだ。  そして黒はお陀仏。  イコール、手遅れ。優先順位は全て終わってから、のものである。  色分けも内容も実際のトリアージと一緒なので災害時にも知識として役立つし、あれやってこれやってという引継ぎの簡略化にもってこいだ。  合理主義なあいつらしい。  閑話休題。  長くなっちまったけど、引き継いだ後の当日──今日の案件は、全部処理してくれてたってこった。  残っているのは、俺でもできる程度のことだ。  量が膨大なだけでそれほど難しくはないし、今日中でもないから焦燥したりプレッシャーを感じることも少ない。 (……あぁ、なるほど。これは、あれか。俺がまだモヤって凹んでたら、ちょうどよく忘れられる忙しさと、デスクワークだよな?) 「……くくっ」  引き締めた口元がニヤリと歪んで笑みが漏れた。  それを戻そうとして、仏頂面になる。  向かいのデスクに座る同僚が、サッと顔をそむけた。これが強面システムか。ドチクショウめ。 「うし」  バチンッ! と頬を叩いて気合を入れてから、仕事を始めた。

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