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 ◇  三初の車に乗り込んで買い出しに出た俺たちは、まずはロヘトへ向かった。  食べ物は腐ってしまうので、先にかき氷機を買うことにしたのだ。  平日なので比較的空いている売り場に行くと、時期が時期なので、すぐにかき氷機が見つかった。 「オイ、これ回すところがねぇぞ」 「電動かき氷機らしいですね。スイッチ一つでかき氷ができます」 「それじゃつまんねぇな……これは却下」  円柱状のシンプルなかき氷機を置き、ハンドルのあるものを探す。  大の大人二人が、なんとも真剣にかき氷機を選ぶ図。  傍から見ればなにをしているんだとツッコまれそうなものだが、俺たちは至って真剣である。 (おっ、こりゃあ……!)  キョロキョロとめぼしいものを探す俺は、一つのかき氷機を見つけ、手に取った。  運命的な出会いと言えるこのフォルム。  目玉がキョロキョロと動く、いかにも美味しいかき氷が作れそうな、赤いクマっぽいキャラクターのかき氷機だ。 「三初、これにしようぜ」 「ん?」  一つのかき氷機の箱を手に取っている三初のところへ歩み寄り、俺は抱えた箱をニヤリと見せた。  三初はじっと俺の持つ箱を見つめ、その名前を読み上げる。 「キョロちゃん」  恐ろしく三初の発する言葉として似合わないが、俺が一目で気に入ったかき氷機の名前だ。 「ヤバいだろ。ハンドルを回すとな、目がキョロキョロ動くらしい」 「あのね、あんたはいいかもしれませんけどね? そのかき氷機は、今から俺の家に置くんですよね? クソダサいでしょ。こっちにしてください」 「あぁ?」  冷ややかな目で三初がズズイと差し出したのは、極々シンプルな黒いかき氷機だった。 「んだよ、普通のかき氷機じゃねぇか。別にいいけど、……」  と、思ったが、よく見ると値段が諭吉を超える、本格的なかき氷機らしい。  箱には〝お家で簡単に本格フワフワかき氷が!〟と記されているが、諭吉を超える出費が簡単にと言えるのだろうか。  言葉に詰まった俺がジト、とした目で見ると、三初は「そのへんてこマシンより断然イイでしょ」と反論した。 「金の無駄遣いが過ぎるわ! ゼッテェキョロちゃんのがいいだろッ!」 「やですよそんなガキ臭いやつ。大人のかき氷は、大人の財力に依存するんです。一万五千円くらい別に」 「どこの誰がかき氷に一万五千円出すんだよ本格的なバカが!」 「本格的なアホにバカ言われたくないんですケド」  一つ打てば速攻で打ち返してくるデッドボール男に鼻で笑われ、俺と三初の間には火花がバチィッ! と散る。 「キョロちゃん」 「やです」 「キョロちゃんのがかわいい」 「お断り」 「キョロちゃんのが良心的だろ」 「三十路のチョイス的に良心ゼロでしょ。ゴリゴリ尖ってるじゃないですか」 「本格かき氷機の値段のほうが尖ってるわブルジョア育ちめ」  両者一歩も譲らない戦いは、一向に終わらない。  周囲の人の視線にも気が付かないほど白熱した言い合いは、このまま平行線を辿るように思えた。──が。  そんな俺たちが同時にそっぽを向いた時。 「「お」」  視線の先にかき氷機を見つけて、同時に声を漏らす。  そこにあったのは、これぞかき氷機! と言わんばかりのレトロな風体な、昭和の香り漂うかき氷機だ。

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