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「うぁ、みあじめ、なんれ……あぁ~……っ」  情けない声を上げて悔しさにくだを巻き、ガクッ、と一瞬意識が落ちる。  すぐに意識が戻ったが、片意地を張っていたはずが、一転。  しがみついていた三初の首をぎゅぅ、と抱きしめ、なんで、どうして、と甘えて頬を擦り寄せるだけの酔っ払いと化してしまったのだ。  くそう、酷ぇ。酷ぇよ。  俺が抱き着かせて甘えさせるはずだったのに、俺は三初から離れることはできねぇんだぜ。  うぅ、うぅ、と唸る俺の背中をほくそ笑みながらなでる三初は、「なぁに企んでるのか、吐かせるのにうってつけですからねぇ」と言った。  つまり明確な目的は不明だったとしても、俺がなにかを企んでいるのはバレていたわけだ。  俺にしてはなかなかうまく誘導できたと思っていたのに、エスパーも極まるとホラーである。 「お、俺、俺ダメになるってぇ……もう、ばかが……ふ、明日起こして……」 「はいはい。それで? 俺に最後の一杯を飲ませて、どうしたかったんですか?」 「んぅ……俺にデレデレさせたい、の、は、秘密だ」 「ほーう? ……っ。……」  秘密の計画は秘密なので三初に言うわけにもいかず、俺は緩く首を横に振った。  三初は含みのありそうな声で相槌を打ったが、一瞬、俺の背をなでる手に力がこもった気がする。気のせいかもしれない。  だって計画は秘密だが、捕まってしまったのでとん挫した。  俺が三初を出し抜くことはできない。  そんなルールがこの世界にはあるように思えて、へちゃむくれた表情で拗ねてしまう。  抱きしめた三初の首筋にチュ、とキスをして、淡いキスマークをいくつもつけた。 「っ、ん」 「だって今日は、楽し、で……嬉しい、から、触りてぇって、思ったんだ、ん」 「は……、っ、ぁ……?」 「みはじめ、甘やかしすぎだ。好きになっちまう……俺ばっかいっぱい好きになったら、バランス悪ぃ。だから、俺に、もっと……って、内緒の計画、な~……」 「ちょっと待て、なん、く……っ」  すりすりと甘えながら唇を押し付けて、軽く吸う。  珍しく大人しい三初はそのたびに首を逸らせ、逃げようとする。  そして耳まで真っ赤に色づき、ついに俺の首根っこを掴んで引きはがした。 「ぅあ、いやだ、みはじめ、もうちょっと」 「いやなんか今そういうんじゃないんで。今そういうんじゃないから一旦離れてどうぞ。今すぐ」 「いやだ、ずっといっしょだろ……?」 「今そういうこと言うのも禁止で」  引きはがされた俺がめげずにしがみつくと、再度強めに引きはがされて言葉にまでダメ出しを食らう。  あんまりだ。計画が失敗した挙句に触るのも喋るのも禁止されるなんて、へそを曲げるに決まっている。 「いやだ……今日は、俺をぜんぶあげたいくらい、お前が好きだって思ったのに……」 「…………」 「ぅへぇ」  ガタン、と椅子が鳴った。  断固として離れたくないという意思表示にギュッ、と一層抱き着いてやると、三初は突然俺を抱き上げたまま立ち上がり、足早に寝室へと移動する。  バンッ! と寝室のドアを開いた後は、広いベッドへ乱雑に投げ落とされた。  あまりにも突然の行動に、なにがなんだかわからない。

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