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02
「ね……先輩、なにが好きなんですか?」
「なにって……そりゃ、好き……冬賀だ、ろ……」
「…………」
ピクッ、と無意識に片眉が上がった。
手を強く握ると、反射的にかもしれないがやんわりと握り返してくる。その甘ったれに免じて、不問にしてあげることにした。
「どういう好きなのかねぇ……」
「冬賀は……ともだちでよ……チョコのともだち……だか、好き……」
「そ?」
手の力を緩める。
チョコをくれる友達だから、赤毛の友人が好きらしい。
緩めてもにぎにぎとしてくるので、その手を引き寄せて頬に当てた。
熱い手だ。この人は自分より体温が高い。触れていると心地よく、もっと熱くさせたくなる。
予想したものと好きの種類が違ったので、機嫌よく指先にキスをし、ゴロゴロとすりつく。
三初は年季の入った天邪鬼であるからして、ギャラリーもなく本人に伝わらないのであれば、スキンシップが好きなのだ。特にキスが好きだ。
意味はないが触れていたい。飽きたら離れる。勝手に触られるのはノーサンキュー。相手の都合はどうでもいい。
「おしゃべり、しようか」
「しようかよ……うぅん……」
ごつい指にまとわりつく飴細工じみた爪に軽く歯を立てて、噛み付くふりをして笑った。
三初の取扱には細かなルールがある。
御割はほとんどそれを無視できる、奇特な存在だった。……特別、とも言う。
「周馬先輩は、友達ね。じゃあ他は? 最近近くにいた人、どう思う?」
「あぁ……? ほか……あー……出山車、かわいい……」
「なるほど。それはどういうかわいい?」
「かわ……狸、みてぇ……あと、弟……」
「年下でペットな存在か。犬が狸飼ってもねぇ……釘は刺さなくていいか。他はどう?」
「犬がたぬ……ぁ、ん……あれ、中都は……わけわからん……でも、かわい……いいやつだよ、なぁ〜……」
「あらら。あれもかわいいの? うぜぇけどなぁ。好きじゃないですか?」
「すき……ちげぇし……」
御割の手の甲に頬を寄せて、むにゃりと緩む寝顔を観察する。
「んっ……俺は、三初が……」
「ん? 俺?」
自主的に自分の名前が出され、首を傾げた。先を促す前に語り始めるとは、飼い犬らしいことである。
「三初……が……」
「俺がなに?」
そう尋ねる声が微かに弾んでいることを、眠っているこの人は気づいていない。
御割は「うぅん……」と唸り、眠たげに身をひねって三初の首を抱き込むように腕を伸ばした。
「も、っるせぇなぁ……」
「っと」
逞しい腕に捕まえられたせいで、マヌケな寝顔が至近距離にやってくる。
強面と言われるに値する太い眉に三白眼、凶悪な口元が、ゆるりとやわらぐ無防備な寝顔。
「俺は三初が一番好きなんだから……ガタガタ言うんじゃねぇよ……」
……やはり、さっさと両手を縛っておくべきだった。
「……はぁ……」
御割の寝顔を前に、三初は心底そう思って、静かに深いため息を吐いた。
眠っている時ばっかりストレートに表現してくるこの人の言葉は、いつも心臓の内側の小さなつぶを、プチンと潰す。
まんまと黙り込みそうになるほど効果は抜群なのだが──やられっぱなしは性にあわない。
「ね、先輩。ガタガタ言うから……もっかい言って?」
「んっ……」
負けず劣らず天邪鬼なこちらとて、眠っている時くらいしか素直に甘えてなんかあげないのだ。
無防備なのをいいことに好き放題御割の唇を蹂躙しつつ、三初は心で、ペロリと舌を出した。
了
いつも誰殴や他の作品、恐れ多くも木樫を見守って下さりありがとうございます!
嬉しさがモコモコと湧いてくる。短い話ですが、お礼になっていれば幸いですぞ(照)
これからも、よろしくお願いいたします!
木樫
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