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最後の言葉はどっちなのか、ご自由です
「俺には……お前だけだ」
人生において、こんなにも重ったらしい言葉が、こんなにも軽い状況で言う日はあるのだろうか。
しかも己の欲のために。
「はあぁぁぁ……」
どさ、とソファーに座った午前0時過ぎ。不幸中の幸いの時間である。
先週から終電帰りが続いていたのに今日はそうじゃない。まだちゃんと電車が走っている。のに、俺は家にいる。
ブラック企業に片足突っ込んだ会社に勤めている俺はやっとの思いで就職出来た。
喜びと焦りで周りを見ていなかったのが原因だ。
周りの話を聞いてもうちにはないシステム。周りにうちの話をすればドン引きしている顔と「そこ、やべぇところじゃん……」という返し。
わかっている。いや、わかってきた?
26にもなって右も左もわからないなんて言ってられない会社だ。後輩が辞めていった数は二桁いっただろう。
その度に上司は言う。今の若い奴は使えん。
使えないのはお前達の頭と意味のわからない根性論だ。
そういや、同期の顔も見なくなった奴いるな。俺って結構、根性あるのかもしれん。
なんて、ディスってる上司と同じような心を持ち始めちゃってる俺は座ってから動かず、ただただ天井を見てはボケっとしていた。
明日――というか今日――仕事があるのに。てか、まだ週の真ん中なのに。あと二日、どう生き延びよう。
「二日かどうかも怪しいなあ……」
――あ。
重い溜め息を吐いても、重い体は重いままで軽くさせてくれないらしい。
腕を動かすのも怠い。けどスマホを出さなきゃオカズが出せん。
パソコン起動までは体がもたない。今の世の中の進歩はすごいや。
今日は特別疲れているから直に届くようにイヤホン付けようかな。
確かポッケにあった気が……お、あった。
線がなくてもスマホと連動させれば聴こえちゃうからすげぇよな。線を気にせず動けるし、楽だ。
ちょっと高かったが、長く使えばその分もとが取れるだろ。
「お、かわい」
ササッと顔で選んだ子は少しロリ気味な子。色白でぷっくり唇。目はパッチリ二重ででっかいおっぱい。
スタイルはまあまあだが痩せ過ぎてない健康的で抱き心地が良さそうな女の子。
初めての女優さんだが、おっぱいにやられたので。失礼します。
「声もかわいいなぁ」
再生してみれば自己紹介などの茶番劇。一分も経たないうちにヤり始めてるから良い。
やっぱ疲れていても溜まってるモノは溜まってるみたいで、ムラムラしてきたから抗えない。
気だって紛らわせるけど、仕事があろうがなんだろうが一発出せば落ち着くし。気を紛らわせる方が時間の無駄、と考えてるから――シコるのは大事だと思うわけ。
思うんだけど、
「……なぜだ」
ムラムラはしている。まあ、擦ってれば気持ちが……良い。良いには、良いんだが……。
「勃たない、だと……?」
俺のオレは、下を向いたままだ。
変に焦る。この子が原因か?
い、いつもお世話になっている女優さんにしよう!
速攻で名前を検索。たまたまの偶然の奇跡で新作が出ていた。
幼馴染み設定だ。好き。おーけー。これだ。
再生をして、流れを待つ。
この女優さんのイク顔が結構、好きになったりしたから推してるんだが、恥ずかしがり屋な設定なんだろうな。
目を背ける感じがまた良い。好きだ。これはイケるのではないか?
動画内ではフェラってて、男がしどろもどろになりつつ、その姿が愛おしそうに見えてきた演技なのか口いっぱいに含んでいる。
苦しいのかなんなのか、漏れる女優さんの声は値が張ったイヤホンから直に届いてドキドキしてきた。
興奮している証拠だ。
さあ、息子よ。どうだい?
「……」
残念だ。はやい結果に残念でならない。
お前どうした……?
しばらく擦っても変化なし。疲れ過ぎて勃たない?
ならなぜムラってんだ……え、うそ。まさか、いーでぃー……?
「うわあ……」
俺はもう、ダメだ。
「うーっす。電気付いてたから寄っちゃったぜー!」
「……」
「鍵は使わせてもら――あ、お取込み中?」
「……だったら、どれだけイイことか……」
突然、時間も気にせずやって来たのは幼馴染み。
親同士の仲が良かったため、産まれてきてからずっと一緒にいる幼馴染みだ。
お互い一人暮らしだが、お互いの家の鍵を持っている。
親が俺を心配して、近くにこいつも住むってのを知って「鍵渡したら?」って。
ようは生存確認だ。それにつられてこいつの親も俺に鍵を渡してきたわけなんだが、俺は使ったことがない。
なぜなら使う前にこいつが俺の家に来るからだ。
昔っから美形で性格もその場で盛り上げたり出来るからモテる野郎なんだが、頭も良かった気がする。
俺も負けてないつもりだったのだが、世の中は頭が良いから出来る人間、ってわけじゃないらしいぜ。
要領も良くなきゃ話にならん。こいつは、そこもちゃんと出来てる人間だ。
「こんな時間になんて、お前元気だな!」
「そう見えるか……」
「……見えないな?」
大学までは一緒だったのだが仕事先はさすがに違い、こいつは在宅ワークで生計を立てている。
初っ端から波が乗っちゃってるこいつの仕事は俺より倍の倍、稼いじゃってる人生イージーモードの幼馴染みだ。
あ、あとなんか株もやってるとか言ってたな。バカみたいに稼いでるんだろうな。
純粋に羨ましい。
「そんなソファーにスーツも脱がずチンコだけ出して脱力してる男が、オナってる姿だとは思えない。あ、そのイヤホンってブルートゥース!?いいなあ!これ高くね?」
的確な俺の体勢を口に出しつつも耳からちょろっと出てる機械に目を付けたのか、俺の恰好なんて気にせずソファーに座ってきた幼馴染み。
それどころか耳まで触ってきた。
こいつの距離感の異常さは知っていたけどさすがに謹んでほしい。
いや、俺も俺でこいつが来たなり出してるもんをしまえばいいんだろうが、全然まだまだ体が重いから無理だ。
つーか、もしかしたらの事態に頭が追いついていない。
「どうしよう……インポかも……」
「え?なんで?いくらした?」
「全く勃たん……夏のボーナスの三分の一ぐらい……」
「今日だけじゃね?やっぱ高ぁーーー!奮発したなー」
「わからん。ショック過ぎてナニも出来ない……でも抜きたいんだよなあ。冬のは貯金って決めてるから、今年最後の買い物だ」
「ぶはは!お前のそういうとこマジ好き!おもしろー」
笑うこいつは置いて本気で勃起しない。
イヤホンはしたまま。動画も進んでいる。動画が再生されてても会話が続いているのは、こいつの声が大き過ぎるせいだ。
そんな動画は今、ぱこんぱこんと抜き挿し中。幼馴染み設定の二人は気持ち良すぎてバグってるのか、お決まりの〝中に出してぇ〟なんて何度も言っていた。
男優はあくまでモブ扱い。中心人物である女優さんの邪魔はしないように、だけど良い顔を作らせるように頑張ってる男優。
カメラワークだって完璧なのに、なぜなんだ……つらい。
「んー、俺が抜こうか?」
「女で勃たないのになんでお前がヤろうとしてんだよ……」
「落ち込み過ぎだって。学生の時だって抜きっこした仲だろ?」
「学生と今じゃ違い過ぎる……」
「あーあーあー!画面の向こうと!現実の違い!お前忘れた?」
ぽす、と取られた片方のイヤホン。
高性能なイヤホンは片方だけ取ると停止するシステムがある。
今回も幼馴染みが取ったイヤホンはそれに反応して音も動画も一時停止状態になった。
案の定、停止になった画面は中出しされてナカから溢れ出る白い液体の部分。
前まではこの画ですら支配欲が満たされて抜けたんだけどなあ……なんでこいつなんだよー……。
「ほらほら、明日――というか今日も会社だろ?ちゃちゃっとピュッて出しちゃおうぜ?」
エア棒を掴む感じで右手を上下に振り下ろす幼馴染み。
やけに自信あり気なその態度は、中学の時に初めて抜き合いっこしたしようとした態度と同じだった。
そういや、あの時も気持ち良かったなあ……初めてだったからかもしれないけど。
ま、いいや。時間も惜しい。初めての女優さんでもお世話になってる女優さんでも俺のモノは反応してくれなかった。
けど未だにムラムラしてる!――うん。
「そこまで言うならやってみろよ」
もう俺は無力状態。
スマホはテーブルの上に置き、もう片方のイヤホンも外してソファーの隅にポイッと。
「決断はやくてけっこー!」
勝手知ったるなんとやら。
幼馴染みは俺の寝室に行き、速攻で戻って来た。
手にはローションと箱ティッシュ。
マジ? 本気じゃないか。
「アロマ炊いちゃう?」
「デリヘルみたいだな」
「お金取っていいのか?」
「最後の買い物はこいつだから嫌だ」
そう言ってイヤホンの方を適当に指差しした。
下半身は乱れたまま、背もたれに寄りかかり天井をボォーっと見る。
手なんて使わなくてもいいから適当に適当に。手が余っちゃうけど、適当に適当に適当に。
「本当にふゃふゃじゃん」
「ん」
「目、瞑れば?」
「……」
言われて素直に閉じる。
結局は瞼の裏側を見ているわけだから真っ暗な視界になったわけじゃない。
むしろ意識してるせいか瞼がピクピク動いてる。
目を閉じたまま黒目を動かしたりしてみるが、なにかが変わるわけでもない。
そ、と俺のに触れてきた幼馴染みの手は少し冷たかった。が、すぐに温もりを感じる事が出来、安心する。
指先は冷たいが手のひらは温かいのだろう。
「皮剥けたのいつだっけ?」
「お前に剥かされた」
「あ?そうだっけ?じゃあ俺のもお前に剥かされたのか」
「痛かった」
「じゃあ俺も痛かったのかー」
「……」
固くなっていないモノは幼馴染みの手のひらによって支えられてて、もう片方の手の指でツツツー、となぞられる。
温度差のせいなのか、それとも指とはいえ棒っぽいものになぞられたせいか一瞬、ブルッと体が震えた。
鳥肌が立ったのかもしれない。
何度かなぞられていると今度は亀頭をくるくる撫ではじめて、竿を手のひらで包み込まれた。
目を瞑っているせいで妄想もしやすくなってる俺の脳内は昔、好きだった女性に撫でられてる妄想へ切り替える。
「あ、先走り!これワンチャンあるな!」
「くっ……!」
切り替えても無駄だった。こいつがすぐ喋るから。
わざとなのか、先走りをねちゃねちゃさせながら音を立たせようと弾くように先っちょを叩かれている。
痛くはないがもどかしいさを覚え、ちょっとだけ違和感。
それに気付いてくれたのか亀頭責めはやめて、擦る中心に動く手。
温もりって大事なのかもしれん。
「勃ったぞー」
「ぅえ!?――マジだ!勃起してる!」
「いえーい」
「俺にはお前だけだ!」
「軽っ!軽過ぎる!」
意外と簡単に勃ったモノ。俺の落ち込んでた病はないようだ!
この歳でEDはキツすぎる……相手という相手は大学以来出来てないからそこまで落ち込まなくてもいいんだけどな。
長い目見ても、そんな展開になるような人物見当たらないし。そもそもそんな時間すらないし。
あ、すぐ現実見ちゃう……ツラいには変わりない俺の人生すでに終わってる……。
「あ、あー!なんか弱ってる!」
「メンタルの問題かもな」
「えー!今さっき俺だけだあ!とか言ってたくせに!」
慌ただしく反応する幼馴染みとツラさに耐えられない俺との温度差がこいつの指先と手のひらなみに差がある。
出来る事なら不貞腐れてぇ。でもいい歳こいて不貞腐れるとか論外過ぎる。
大人って大変。子供に帰りたい。
「――う、わ……!おい!」
「んぁ?」
「ええええええええええ!」
子供に帰りたいなんて後だあと。
今の状況を処理したら帰ろう!――なんでこいつ俺のモノ咥えてるんだ!?
「……勇気あるな?」
「んー、ん!」
「……」
なかなか味わえない温もりは温もりってもんじゃなかった。
熱い。涎のせいか、感覚が伝えきれない。
オナホとは訳が違う。あんなの犬に舐められたって感じで人間の口ってすげぇ。
いや、つーか、そこ?
ちんこ、よく咥えたなあ……。
「い、嫌、なんだ、が……?」
「本当に嫌だと思ってる?」
その言葉を発するためだけに一旦、口から出した幼馴染み。
俺の心が読めているこいつの口角は上がっている。
正直、俺の言葉は嘘で、こいつに配慮したつもりの言葉だ。
だから返事は、首を振って目で返す。――続けてほしい、と。
「ふはっ――そういうとこ、好きだよ」
「……っ」
ひや、と冷たい空気が触れたモノはピクピクと揺れている。ガン勃起。
裏筋をぺろぺろ舐めたあと、また咥える幼馴染みはちょっとだけ声を漏らした。
さっきのオカズと一緒だ。考えてみればこいつとの関係も幼馴染みで設定が一緒だ。
まあ、顔は恥ずかしがってないけど整ってる分、最高だ。
男同士とはいえ、気持ち良いところを理解してるから、最高だ。
そうとしか思えない。
「あ、んぅ……」
「……」
重い体なんていつからなくなったか。
舐めてるこいつを見るために、声が漏れちゃう口を手でおさえるために、力が入る。
でもそんなの屁とも思わない。最高な時間。
舌先で先を舐めながら膨れているタマまで撫でてきた。
やべぇ気持ち良い。なんだこいつ。え、プロ?
こいつ実はこっちの人だったのか。いやでも彼女いた時期あったな……じゃあ俺と同じ?
てか、俺も俺ですごくないか?
いくら幼馴染みでもチンコを預けちゃってちゃんと気持ちくて良い感じなっちゃってる感、すごくないか?
え、俺が実はそっちの人だったとか?
まじ?
「集中、した方がいいぞ」
「あ、ああ……」
集中もクソもない。イキそうでやべぇ。やべぇしか言葉が出ないやべぇ。語彙力が俺の液と共に散らばってなくなりそう。やべぇ。
あ、やべぇ、もう無ぇや。
「学生の時、ここ好きだったっしょ」
「んん……お、いッ――」
吸うようにタマを舐めてきた。
撫でられた時点でイキそうだったのに、口に含まれたら終わる。
幼馴染みの顔に俺のモノが当たってて変な光景なのに、それすらもイキ要素だ。
好きなところを責められて、相変わらず手のひらは竿を包み込みながら擦られてる。好みなタイミングの強弱。
「おい、ん……もぅ、やばいからっ……」
「イケそ?」
「ん、」
お願いだからタマの近くで喋らないでほしい。息があたってくすぐったい。
「じゃあ、あとはこいつに手伝ってもらってイッちゃおうな」
「はあ、はあ、あ……?」
そう言って出したのはさっき、俺の寝室から持ってきたローション。ちなみにピーチ味。俺、桃が好きなんだよ。
桃の香り好きなんだが――今これも追加されたら秒でイケる気がする。
「お前ぬるぬる好きだもんなあ。おー、ピーチつよっ!」
「あぅ、待った、待った待った……!んあ、つよすぎだ……!」
急に来た快楽は凄まじい。
先っちょから垂らされたローションは冷たく、伝い流れる。ぐりぐりと亀頭からなじませて、また上下に擦りながらタマ責め。
勢いあって口を塞いでた手で、こいつの肩を触ってしまった。
驚いたことに、俺の口から涎が出てたみたいで手が濡れてる。こいつの肩を汚した。けどそんなの気にする余裕がないためストップさせることしか出来ない。
足と足の間にいる幼馴染み。距離は最初から近かったが、どうだろう。
こいつの吐息が耳にかかることがあっただろうか。
「俺しか見てないし、俺しか聞いてないから。我慢せずイッちゃいなって」
「おま、あぅ……っ!」
突然、囁かれた言葉にアウト。
ただの寒天もトッピングを加えりゃ美味くなる。
今のもそれと同じで、こいつの声が降ってきたせいで俺が求めていた最後が出てきた。
いつの間にか用意されていたティッシュは二、三枚。ちゃんと俺の液を受け止めていて汚れていない。
「はあ、びび、った……ん、」
「……」
脱力した体を背もたれに寄りかかろうとしたが、幼馴染みに支えられてるせいで出来なかった。
力がないから抵抗する気も言葉も出ないんだけど。
「気持ちかった?」
背中を擦りながら聞いてきたのは、返事が一択のみの言葉。
「……飯」
「お返事なしー?」
はは、と笑うこいつは空笑い。……久々だったから、気まずくなってるのか?
「いや……あー、うん」
「なら良かった」
後始末までしてくれた幼馴染みは本当にご飯を作ってくれるみたいでキッチンに足を向けた。使用済みのティッシュを持ちながら。
疲れた体にAVですら勃たなかったモノは、どうやら温もりを求めていたみたいだ。
とはいえ、俺の会社でそんな温もりをくれる人はいない。人を求める時間もない。
これ、は……利 益 対策 として満点、なのでは――?
「なあ、次は俺がお前にやるよ」
自分の事しか考えていないお花畑脳は第三者からするうとクズにしか見えないだろう。
しかし、相手は俺の幼馴染み。
「……俺、今お前に殺されかけた……!」
「あ?あー……だろうよ!」
利害一致!
欲のためなら、こいつを使うのが最終手段だな。
「なんならお前の身体、全部おれで出来てるようにしないとなー」
【END】
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