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【千草と美藤(帰宅)】 *

◆表紙イラストの二人。イラスト依頼の際に書き下ろしたお話に加筆したものです。  千草(ちぐさ)が家に帰って来たとき、鍵は既に開いていた。  カーテンの隙間から零れる光は外からも見えていて、中に誰かが居るのは明白だ。  そのことに、疑問は抱かない。  千草は戸惑いもせず玄関の扉を開け、中に入る。  靴を脱ぎ、歩き出そうとするも……不意に、眉がピクリと動いた。  そしてそのまま、眉間に皺が寄せられる。  眉間の皺をそのままに、ズカズカと不機嫌そうな足取りで千草は歩き出し、一直線にリビングへと向かう。  ――どこからどう見ても不機嫌そのものだ。  リビングの扉を開けると、ソファに座った一人の少年……美藤(みふじ)が、千草を振り返る。 「――あ、おかえり~」  そしてそのまま、少年は握っていたスマホに視線を落とす。  ――が、すぐにスマホは没収された。 「疲れて帰って来た彼氏様に対して、出迎えはどうした」  不機嫌そうな表情を浮かべた千草はそう言うと、持っていた自分の鞄と美藤のスマホをテーブルに放り投げ、美藤の隣に座る。 「え~……昨日は『出迎えとかすんな、ウザってぇ』って言ってたのに? ワガママ~」  すかさず美藤は千草の脚の間に座り、唇を尖らせた。  ――しかしそれは、怒っているという意思表示ではない。 「この状況でキスしてもらえると思ってるお前は凄いな。近年稀に見る馬鹿だ」 「何で! してよ! するしかないじゃん! おかえりのキスはイチャイチャの必須項目だよ! 先っぽだけでいいからさぁ!」 「どこだよ、先っぽ」  冷たく返す千草の前で、美藤はワーワーと騒ぎ始める。  ……さながら、玩具を買ってもらえない子供のようだ。 「晩ご飯作って待ってたのに~! キスしてよ! キスキスキス~!」  千草の太腿を掴み、揺するように美藤が腕を動かす。  すると、眉間の皺を更に深く刻んだ千草が、ある行動に出る。 「――うるせぇ、黙れ」  ――美藤の口に、指を突っ込んだのだ。 「んむ……っ!」  人差し指と中指、そして薬指を突っ込まれた美藤は一瞬だけ驚いたような声を出す。  が、美藤は瞬時に大人しくなった。  そしてあろうことか……抵抗するどころか、懸命に舌を動かし始めたのだ。 「ふへへは~!」 「『スケベだ~』じゃねぇんだよ。黙って濡らせ、馬鹿」 「ふぁ~い」  喉の辺りまで乱暴に指を突っ込まれようと、美藤は嫌な顔一つ浮かべない。  空いているもう片方の手で、千草にベルトを外されても……同様の反応だ。  千草は変わらず不機嫌そうな顔と声のままだが、それに対して美藤は恐怖を抱かない。 「『先っぽだけじゃヤダ~』っつっても知らねぇからな」  ――千草が既に怒っていないということも。  ――なんだかんだと、自分に対して甘いということも……美藤は全て、分かっているからだ。  指を引き抜かれた後、美藤は小さな声で呟く。 「晩ご飯が用意されてて嬉しいなら、そう言えばいいのに……センセは素直じゃないなぁ」 「はっ倒すぞちんちくりん」 「酷い! でも好き!」 「知ってる」  千草の返答に、美藤は笑みを浮かべる。  そして美藤はそのまま、千草と向かい合うよう座り直した。 「ご飯にする? お風呂に――」 「お前」 「即決なんだ! 嬉しい! 好き! 抱いて!」 「うぜぇ」  下着をズボンごと下ろされても、美藤は恥じらわない。  むしろ、まだかまだかと千草を見つめている。  千草の指が秘所を這うと、美藤はようやく大人しくなった。 「ん……っ」  ピクリと体を強張らせ、甘い吐息を漏らす美藤を見つめる千草の瞳は……冷酷だ。  ――だが、口元は笑っている。 「随分と大人しくなるんだな?」 「だ、って……ひ、あぅ……っ」  指が内側を擦る度、美藤は小さく跳ねた。  その反応は、先程までとは違い……随分と、しおらしい。 「センセ、が……優しい、からぁ……っ」  美藤が濡らした千草の指は、秘所にすんなりと侵入を許される。  だからこそ千草は、美藤が善がるポイントをわざと執拗に狙う。 「ふぁ、やっ! うぅ、い、イジワル――あッ!」 「どっちだよ」 「んっ、ふ、あ……ッ! センセ、やッ、そこぉ……ッ!」  指でグリグリと、重点的に感じる箇所を刺激されて……。  性に多感な美藤が、我慢できるはずもなかった。 「イ、っちゃう……ッ! や、やだ、一人はやだぁ……ッ! センセ――」 「意地悪だから聞かねぇ」  まるで、いいカモを見つけたチンピラのようなあくどい笑みを浮かべて、千草は遠慮容赦なく三本の指を根元まで深々と突き挿れる。  そして、乱暴に抜き差しを繰り返した。  ――刹那。 「ひあッ! あ、やだ……ッ! やだぁ、あ、あぁッ!」  美藤は背をしならせると、体を激しく痙攣させる。  根元まで挿入された千草の指は、途端にきつく締め付けられた。  千草のスーツが、白い飛沫によって汚されていく。  けれど千草の視線はスーツではなく、美藤の顔に注がれていた。 「お前ってほんと、顔はいいよな」 「ふぁ、あぅ……っ? それ、って……今、ゆぅことぉ……?」  絶頂を迎えた美藤は、肩で息をしながら力無く返答する。  そのまま脱力したのをいいことに、どさくさ紛れに千草へ抱き付く。 「そう言えば、あれだ。まだ、言ってなかったな」 「ふぇ……?」  惚けた表情を浮かべる美藤の唇に、触れるだけのキスが落とされる。 「ただいま」 「……今言うことかなぁ?」 「文句あんのかよ。……まぁいい、ハメるぞ」 「ムードも何もあったもんじゃないけど喜んで!」  そう言って美藤は、千草のベルトを引き抜いた。 【千草と美藤(帰宅)】 了

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