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みんな、ずっと仲良し!◆4

「気持ちいいねえ、亜利馬」 「はいっ。お腹いっぱいだし、もう大満足です!」  渋谷の焼肉屋から寮まで徒歩で向かう中、俺はうんと背伸びをして夜空に向かい至福の溜息をついた。  喧騒に火照った頬が夜風に吹かれて心地好い。夏の夜はこうやって歩くのも最高だ。 「亜利馬~。お前って奴はよォ、てめえ、あれだ、……その、なかなか最高な奴だって思ってるんだぜ俺は」 「うっ、酒臭い……。潤歩さん酔い過ぎです。明日も仕事なのに」 「いいんだよそんなことはァ。いいかてめぇ、俺に断りなく引退したらぶっ飛ばすからなァ」  背後から思い切り潤歩に寄りかかられて、もはやおんぶ状態だ。 「潤歩さんも引退っていうか、クビにならないでくださいよ。二日酔いで」 「なんだぁてめぇ、誰に言ってんだこの野郎」  口元に手をあてて、獅琉がくすくすと笑う。 「竜介さん、パスしていいですかぁ……」 「おう、潤歩。亜利馬が潰れちまうって、ちゃんと歩いてやれ。俺がおぶってやってもいいが」 「竜介この野郎。ていうかお前はいつになったら、大雅を嫁にもらってやるんだっつうの」 「うん? 嫁……?」 「潤歩、余計なこと言ったら今すぐケツ掘るからね」 「へいへい」  大雅に怒られてすっとぼけた返事をする潤歩を尻目に、俺は背後を振り返ってフリーズの三人に声をかけた。 「皆さんも大丈夫ですか」 「亜利馬くん! お気遣いありが……うう、飲み過ぎて……」  怜王に背負われた秋常がぐったりと顔を伏せ、夕兎もボトルの水を飲みながら無言で手を振っている。未成年である夕兎のそれはただの食べ過ぎだ。 「夕兎さん、明日はお昼の十二時からですよ。皆起きれそうですか?」 「ああ、……問題ない、叩き起こす」 「皆でスマホ慣らしまくれば大丈夫だよ。こういう時こそ助け合っていこう!」 「確かに! それなら全員遅刻しないで済みそうですね。最悪の場合は部屋まで行けばいいし」  獅琉が提案してくれて、そこで初めて俺は夕兎達と番号の交換をし合うことになった。 「なあなあ、どうせなら今日はみんな同じ部屋で寝たらどうだ。結局後は寝るだけだし、それなら確実に寝坊しないだろ」 「でも竜介さん、俺達の寮の部屋って八人入るかどうか……」 「雑魚寝でいいだろ、暑いし」 「いいね! そんじゃ、みんなで亜利馬の部屋に集合!」 「ええぇっ?」  * 「亜利馬。休みに実家帰るならお菓子持っていきなよ。俺昨日、美味しいマフィン買っといたんだ。あげるよ」 「わ、ありがとうございます獅琉さん。母ちゃんも甘党だから絶対喜びますよ」 「お父さんにはやっぱお酒がいいかな?」 「うーんと、……そういえば父ちゃん、AV女優さんのサインが欲しいって行ってたな……。獅琉さん、書いてもらっていいですか?」 「だ、大丈夫? いいの俺で?」  いつもの会議室、いつものメンバー。話題は夏休みのことばかりで、今日は夜になったらみんなで花火大会を見に行く予定だ。わたあめ、焼きそば、りんご飴……楽しみ過ぎる。 「流石に家族にはAVやってること言ってないんだろう?」  竜介に問いかけられ、俺は曖昧に首を振った。 「うーん。一応言ってあるんですけど、いまいち良く分かってないっていうか……」 「……もしかして、普通の男優だと思ってるんじゃないの」 「それはあるかも。別にカミングアウトしても驚くような人達じゃないから、帰ったらさらっと言ってみようかな……」 「えー、動画で実況してよ。その現場見たい」 「いやいや、それは」 「何ならよォ、全員で亜利馬の実家押しかけてやろうぜ」  アイスの棒を咥えた潤歩が提案し、俺は手を叩いて「それだ」と叫んだ。 「うちの家なら田舎で広いし、五人で行っても大丈夫ですよ。母ちゃんも喜ぶと思います。もちろん、皆さんの予定が合えばですけど」 「リーダーとして、亜利馬のご両親に挨拶しないとだよね」 「……俺も、亜利馬のお母さんのご飯食べたい」 「よし、決まりだな!」  四人が笑って、俺も笑う。  忙しい夏休みになりそうだ。

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