78 / 87
みんな、ずっと仲良し!◆4
「気持ちいいねえ、亜利馬」
「はいっ。お腹いっぱいだし、もう大満足です!」
渋谷の焼肉屋から寮まで徒歩で向かう中、俺はうんと背伸びをして夜空に向かい至福の溜息をついた。
喧騒に火照った頬が夜風に吹かれて心地好い。夏の夜はこうやって歩くのも最高だ。
「亜利馬~。お前って奴はよォ、てめえ、あれだ、……その、なかなか最高な奴だって思ってるんだぜ俺は」
「うっ、酒臭い……。潤歩さん酔い過ぎです。明日も仕事なのに」
「いいんだよそんなことはァ。いいかてめぇ、俺に断りなく引退したらぶっ飛ばすからなァ」
背後から思い切り潤歩に寄りかかられて、もはやおんぶ状態だ。
「潤歩さんも引退っていうか、クビにならないでくださいよ。二日酔いで」
「なんだぁてめぇ、誰に言ってんだこの野郎」
口元に手をあてて、獅琉がくすくすと笑う。
「竜介さん、パスしていいですかぁ……」
「おう、潤歩。亜利馬が潰れちまうって、ちゃんと歩いてやれ。俺がおぶってやってもいいが」
「竜介この野郎。ていうかお前はいつになったら、大雅を嫁にもらってやるんだっつうの」
「うん? 嫁……?」
「潤歩、余計なこと言ったら今すぐケツ掘るからね」
「へいへい」
大雅に怒られてすっとぼけた返事をする潤歩を尻目に、俺は背後を振り返ってフリーズの三人に声をかけた。
「皆さんも大丈夫ですか」
「亜利馬くん! お気遣いありが……うう、飲み過ぎて……」
怜王に背負われた秋常がぐったりと顔を伏せ、夕兎もボトルの水を飲みながら無言で手を振っている。未成年である夕兎のそれはただの食べ過ぎだ。
「夕兎さん、明日はお昼の十二時からですよ。皆起きれそうですか?」
「ああ、……問題ない、叩き起こす」
「皆でスマホ慣らしまくれば大丈夫だよ。こういう時こそ助け合っていこう!」
「確かに! それなら全員遅刻しないで済みそうですね。最悪の場合は部屋まで行けばいいし」
獅琉が提案してくれて、そこで初めて俺は夕兎達と番号の交換をし合うことになった。
「なあなあ、どうせなら今日はみんな同じ部屋で寝たらどうだ。結局後は寝るだけだし、それなら確実に寝坊しないだろ」
「でも竜介さん、俺達の寮の部屋って八人入るかどうか……」
「雑魚寝でいいだろ、暑いし」
「いいね! そんじゃ、みんなで亜利馬の部屋に集合!」
「ええぇっ?」
*
「亜利馬。休みに実家帰るならお菓子持っていきなよ。俺昨日、美味しいマフィン買っといたんだ。あげるよ」
「わ、ありがとうございます獅琉さん。母ちゃんも甘党だから絶対喜びますよ」
「お父さんにはやっぱお酒がいいかな?」
「うーんと、……そういえば父ちゃん、AV女優さんのサインが欲しいって行ってたな……。獅琉さん、書いてもらっていいですか?」
「だ、大丈夫? いいの俺で?」
いつもの会議室、いつものメンバー。話題は夏休みのことばかりで、今日は夜になったらみんなで花火大会を見に行く予定だ。わたあめ、焼きそば、りんご飴……楽しみ過ぎる。
「流石に家族にはAVやってること言ってないんだろう?」
竜介に問いかけられ、俺は曖昧に首を振った。
「うーん。一応言ってあるんですけど、いまいち良く分かってないっていうか……」
「……もしかして、普通の男優だと思ってるんじゃないの」
「それはあるかも。別にカミングアウトしても驚くような人達じゃないから、帰ったらさらっと言ってみようかな……」
「えー、動画で実況してよ。その現場見たい」
「いやいや、それは」
「何ならよォ、全員で亜利馬の実家押しかけてやろうぜ」
アイスの棒を咥えた潤歩が提案し、俺は手を叩いて「それだ」と叫んだ。
「うちの家なら田舎で広いし、五人で行っても大丈夫ですよ。母ちゃんも喜ぶと思います。もちろん、皆さんの予定が合えばですけど」
「リーダーとして、亜利馬のご両親に挨拶しないとだよね」
「……俺も、亜利馬のお母さんのご飯食べたい」
「よし、決まりだな!」
四人が笑って、俺も笑う。
忙しい夏休みになりそうだ。
ともだちにシェアしよう!