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第2話安易に好きって言うな
人の気も知らないだろうリクは、「何言ってんだ?」と首を傾げてから、俺に箱ごとティッシュを渡してくれた。
「本当に雪也は、俺の前だと愉快なことになるな。他の奴らと一緒だと、スゲーかっこいいし、頼れる兄貴って感じなのに……どうして俺の前だと面白くなるんだろうな?」
それはお前に惚れてるからだよ! ……って、ぶちまけられたらなあ……力み過ぎてリクの前だと空回りしちまうの、自覚しているんだよ。でも分かっていても体が勝手に反応しちまうから、自分じゃあどうしようもできない。
「悪かったな、カッコ悪くなって……」
軽く拗ねながら鼻血を拭っていると、リクは俺を覗き込みながら微笑んだ。
「そういうとこ、好き」
好きってお前……好きって! こらっ、リク! 俺にそんな殺傷能力激高な爆弾を安易にぶつけてくるなぁ……っ。お前には他愛のないただの言葉でも、俺にとっては夢と憧れを乗せたごちそうなんだよ……。
胸は喜びで浮かれながら、頭は半分冷め切っている。
勘違いするな俺。ふたりだけの時間を共有できる仲になれた……それで充分だろ。男同士なんだし、これ以上先を夢見たら、後が辛くなるだけだぞ。
自分に言い聞かせてから、俺は冗談めいた笑いを唇に浮かべた。
「お前なあ、あんまり簡単に好きとか言うなよ。リクみたいな美人から冗談でもそんなこと言われたら、俺、本気にしちまうぞ?」
このまま冗談で流れてしまえばいい……と思っていたのに、リクの表情からふざけた色は出なかった。
「俺が冗談でそんなこと言うような人間だと思うか? ……好きなもんは好きなんだよ。上京して独り暮らしを始めたはいいけど、大学に通うのが精いっぱいで、どうしようもできなくて困ってた俺を、見返りなしで雪也は助けてくれてさ……今だって力になってくれるし、ああ、家族より信用できる一番の味方なんだって思ってるんだ」
思いのほか軽くない『好き』の内容に、俺は目を丸くする。
ここまでリクの心に入り込めていたのかと思うと感無量だ。そんな素振りを一切見せなかったから、ぶっちゃけ寝耳に水状態だけれど。
リクの一番の親友。そのポジションになれたなら、もう後悔は――。
満足して落ち着こうとした俺の心を、リクは許してくれなかった。
「……俺には、お前だけだ」
まるで俺にすべてを許しているかのような呟きに、うっかり俺の理性が緩んだ。
鼻血が止まったかなんて気にせず起き上がり、俺はリクを思いっきり抱き締める。
そんなこと言うなら、もういっそ全部俺がリクをもらってやる。そんでもって、ずっと一緒に居てやる! とことん構って甘やかして、もっと俺だけにしてやるから――。
思わず今まで抑え込んでいた欲が顔を出して俺を煽ってくる。
ガバッと唇を奪ってリクを押し倒してみれば、俺の下でもがくことなく、おとなしくキスを受け入れてくれた。
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