1 / 1
第1話
大急ぎで秋の行事が通り過ぎていくと、次に待っているのは冬休みだった。
リエーフはそんなホクホクした気持ちでいっばいになっていたのだが、それもついさっきまでの話。
友達から「来年は二年だな」と言われてハタと気が付いた。
来年になったらもう夜久はいないのだと。
それを気づいてからは色々と気持ちが落ち着かない。
来年になったら確かに自分は二年になれるだろう。
だけど夜久はどこの学校に行くのか、そこのところの詳しいことを何ひとつ聞いてないのにも気づいて愕然とした。
頭の出来が違う。
もちろん夜久のほうがランクが上に決まっているのだが、そもそも自分は高校を卒業したらどうするつもりなのか。
それさえもはっきりとした目標もなく暮らしてきた。
「どうしよう……」
たぶん学力が違うから同じところには行けない。でもバレーは続けて行きたい。そしたらやっぱり学校には行くわけで。
「夜久さん。俺、夜久さんと同じところに行くとか無理ですかね」
「は?」
「夜久さん大学どこ行く予定ですか?」
「お、今頃それ気にする?」
「はい」
「もっと夏くらいに聞けよ」
「すみません。全然気がつかなくて俺……。俺、夜久さんはいつも一緒にいるのが当然だと思ってたんですけど……一年と三年ですもんね。もう夜久さん卒業しちゃったら俺なんかと会ってもくれないんじゃないかって」
考えたらちょっと涙が出てきてしまって、慌ててそれを手で拭った。
「俺、A大」
「そこってバレー強いんですか?」
「別に。普通だと思う」
「それでいいんですか?」
「俺はたまたま怪我とかしなかったから上に行ってもバレーは普通にするつもり。A大は推薦枠だしな。ぁ、バレーで推薦じゃないから。学問のほうでの推薦だから、お前には無理」
「そっ……れをそんなにハッキリ言うなんて……。鬼ですかっ?」
「ばか。俺はお前が卒業するのを待って一緒に暮らしたいと思ってる」
「ぇ」
「だからお前は無理せずに他の学校選べ。ただし近くのな。ぁ、別に仕事するんならそれでもいいんだぞ? 高校出たら一緒に暮らそ」
「……プロポーズですか?」
「は?」
「それは愛の告白ですか?」
「そ……んなことまで考えてなかった……。ただ別れるとか考えたことこれっぽっちもなかったから……」
「いえ。いいですっ! 今はそれが聞けただけで俺の気持ちは夢見心地ですっ」
「ぇ……っと……」
「俺、まだ先のこと考えてなかったけど、とりあえず夜久さんが待っててくれるってのがすげー力強いっていうか、幸せですっ」
「大げさ」
「いやいや。大げさじゃないですって」
ホクホクして言うリエーフを見た夜久がバツが悪そうに恥ずかしがる。でもいつまでたっても嬉しそうにしているリエーフにちょっと苛立ったのか、夜久が彼の尻に回し蹴りを食らわしてその場は収まった。
そしてリエーフは普段の生活に戻るのだが、そろそろ将来のことを考えなくてはならないんだな……と漠然と思ったのだった。
夢は同棲。
終わり
20191125
タイトル「突然の危機感」
ともだちにシェアしよう!