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制服とキス

 社会科準備室へ向かう廊下を歩いていると、いつも学ランをきっちりと着ている川崎が、肩に学ランをかけて眠っていた。  乱れた服装、明るい頭髪が多いこの学校で、川崎のような真面目な生徒は非常に目立つ。  そのわりに他の生徒から目をつけられたり、問題を起こしたりといったことはなく、仲良くやっているようだ。他の先生からも評判がよく、成績もいい。とはいえこの学校の中間期末テストは中学校のおさらいのような問題ばかりなので定かではないが。  問題があるとすれば体育の授業に参加しない、くらいだろうか。なんでもアトピーの痕が酷いからと、体操服や水着、制服の夏服すら着たがらないのだ。顔や首元を見る限り皮膚はきれいで、そんな痕がありそうにも見えない。  でもそれが真面目な川崎を、こんな不良が多い学校に進学させた理由なのかもしれない。 『あ……』  開け放たれたグラウンド側の窓から風が吹くからか、川崎の肩にかかっている学ランがずり落ちそうになっていた。  かけなおしてやろうと川崎の学ランに手をかけた瞬間だった。  思い切り手を掴まれる。川崎の手だ。驚いて手に掴んでいた学ランを取り落とす。  見慣れない川崎の白い前腕。川崎は半袖のTシャツを着ていたが、その腕にはびっしりと青黒い色で彩られた骸骨が描かれていた。 「あーあ、先生。見ちゃったね」 「か、川崎……それ」 「ただのタトゥーってやつだよ。こういうの見るの、別に初めてじゃないっしょ?」 「タトゥーって……なんで、川崎がそんなもの」 「キス、させてくれたら教えてあげる」 「キスって……う?!」  一瞬のことだ。ネクタイを掴まれて引き寄せられる。柔らかな、川崎の唇と触れた。 「ごちそーさま」 「ちょ、はぁ?」 「あー、これはねー、ただノリで入れただけ」  トントン、と自分の腕に描かれた骸骨を指さしながら川崎はニヤリと笑って言った。 「センセーの前ではイイコでいたかったな」 「なんで……?」 「先生は、俺に優しくしてくれるから」  でもいいや。と川崎は笑っている。 「センセー、大好き。絶対に……逃がさないから」  ◆ 了 ◆

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