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メール 1
Twitter企画 百人一首でBL一次創作 2019/12/06
56番 和泉式部 あらざらむこの世の外の思ひ出に 今ひとたびの逢ふこともがな
訳)もうすぐ私は死んでしまうでしょう。あの世へ持っていく思い出として、今もう一度だけお会いしたいものです。
◆ ◇ ◆――――――◆ ◇ ◆
『生きてるか』
――――ふた月ぶりに来たメール。このタイミングでこの文面。
――――運命かな。
「なんとかね。
ちょうどすごく逢いたかったんだ。逢おうよ。いつならいい」
――――つい、浮かれた。
『アホか』
――――けど返信はそっけなく短い。つれないねえ、いつもながら。
「あの頃はさ、休みの度に逢ってたよね。休みじゃなくても時間合えば、ちょっとでもって顔合わせてさ。顔じゃないところもバッチリ合わせたけど。合体!とかいってwww」
『下世話な話はやめろ』
「またまたぁー、気持ち良いこと好きじゃん? 俺たち相性良いんだよ。またヤりたいねえ」
『馬鹿なことを』
「ねえ、もっと話そう。電話していい?」
『そんなにヒマなのか』
「いやヒマとかじゃなくてさ、逢おうよ」
『なんで今さら』
「都合は? 次の休みはいつ?」
『図々しい』
「なんで? さんざん寝た仲じゃない」
『あまえはあのとき他の男と、俺の部屋で』
「うん、そうなんだけどさ。俺ちょっと怖かったんだよね。ぜんぶあんたに取り込まれてくみたいな感じで。で、逃げちゃった」
『知るか』
「まだ怒ってる?」
『寝る』
「いつ逢える?」
「もしもし?」
「ほんとに寝ちゃったの?」
――――震える指で打った文。でも返信は来ない。
住所も電話も分からない。このアドレスだけの繋がりになってから十五年。
逢いたかったな。でもがっかりするかな。俺かなり痩せたから。
でもやっぱり、逢いたかったんだけどな。
手からモバイルが奪われた。モニターを確認し点滴をチェックして出て行く看護師の背中を見送り……
はあぁ、と。
切れ切れな息が漏れる。
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