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「いやなんか、すごかった……」  あの後大きくて不思議な執事にびっくりして笑いが引っ込んだ桐嶋だけれど、たびたび蕗口がおぼっちゃまの様子を見に来るのでその度オレンジジュースをこぼしそうになって、結局早めに出てきた。 「思ったより本格的だったな」 「なんか段々執事に怒られるからちゃんとしなきゃって思えてきて怖かった」 良いことでは。 「蕗口がじいやに見えてくるし、俺おぼっちゃまの才能あるかも……」 「おぼっちゃまの才能ってなに」 「分かんない」  そんな会話をしながら視聴覚室に戻っていたらすれ違う人が何人か執事喫茶へ向かったけれど、他クラスなのにどうやら宣伝をしてしまった。特に男のご主人様を増やしている気がする。 「俺らのクラスは繁盛してるかな? 今なら上品に足を掴めそう」  掴むというよりそっと添えるような動きをする桐嶋に、それは良かったと返す。いや、良いのかな。その方が安全そうだから良いのか。ただ、上品な人はそもそも足を掴まないと思う。 「列できてる!」  視聴覚室に着く前に廊下の様子が見えて、桐嶋が興奮したように声を上げた。内容的に一度に何人も入れられない理由があるとはいえ、確かに思ったよりも待ってる人が居る。近づいていくと悲鳴も時々聞こえるし反応も良い感じ。 「よっしゃー! やる気出てきた! 脅かすぞー!」  待っていたお客さんが不安そうな顔をするぐらい明るく宣言した桐嶋に苦笑して、お化けになるためにいざ暗い教室へ。

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