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ケーキとワイン

 幾分軽くなった足取りで、リョウは自宅の最寄り駅の改札を出て思い出す。 「あ……ケーキ」  このまま取りに行かずに帰ろうか、などという考えが頭を掠めたが、それって人としてどうなん?と自分にツッコミを入れて、店へ向かった。ラーメンを食べたり電話をしたりしていたから、随分遅くなってしまった。店は閉店の準備を始めている。 「遅なってすいません!ケーキ予約してる椚田です」  二人で食べるなら四号でじゅうぶんだったのに、張り切って、欲張って六号サイズにしたのが悔やまれる。まさか一人で食べることになってしまうとは。 「オカンと食べよかな……」  真っ白な生クリームをベースに、真っ赤なイチゴがふんだんにあしらわれ、ヒイラギの葉とベルが乗っている。クリスマスカラーのこれぞクリスマス!といったケーキは、まるで幸せそうな笑顔に囲まれるために作られたよう。  写真に収めたあと、切り分けもせずダイレクトにフォークを入れた。 「甘……」  甘いものを食べると、どうしてこう幸せな気持ちになるんだろう。口いっぱいにケーキを頬張り、味覚に全神経を集中させるリョウだった。そして本当なら向かいで一緒にケーキを口に運んでいたはずの相手を思い浮かべ、クリームより甘くてイチゴよりも甘酸っぱい気分に浸った。  アヤが帰宅出来たのは日付が変わってから。また雪が深くなってきた。明日も思いやられるな、とため息をついて郵便受けを覗くと、宅配業者からの不在票が一枚。差出人はリョウ、品名はワイン。  その一枚の不在票に、リョウがこの日をどんなに心待ちにしていたかを思い知らされる気がした。きっとあの電話の時だって、全然平気じゃなかったんだ。もっと寂しがるはずだなんて自惚れて、勝手な思惑が外れて、挙句醜い嫉妬から八つ当たりのような言葉を浴びせてしまった。 「ワインありがとう。次に来た時一緒に飲もう」  メッセージを送ると、すぐに返信が。 「これはこっちで片付けとくな」  というメッセージとともに、生クリームとイチゴで彩られヒイラギの葉やベルがあしらわれたクリスマスケーキの画像が添付されていた。  たとえ何日遅れになっても、絶対にクリスマスをやり直そう。  ちぐはぐな想いを抱く二人が、それだけは同じ気持ちだった。 【おわり】

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