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この想いを、唇から。(2)

だけどね、好きになってしまったものは仕方がないんだよ。 『ひろむ?どうかした?』 『……ごめん』 『え……、あ、うそ、んっ、』 好きだと自覚して数ヶ月ほど経ったある日。 俺は、彼を無理矢理抱いた。どうしても我慢できなかった。大切にしたいと、気持ちを押し込めていたけれど、そんなこと思っていられないほどに、彼への気持ちが溢れ出して。 ごめん、とひたすら心の中で謝り、それでも彼をその時だけは自分のものにできたような錯覚に陥った俺は、今までにないくらい幸せだった。 情事を終えた後、殴られる覚悟でいた俺に彼は「お前も男になったんだなぁ」と小さく呟いて、それから優しく笑ってくれた。 彼の真意は分からないけれど、どうやら嫌ではなかったようで。その後も何度か体を繋げ、今に至っている。 ……キスがしたい。 彼の柔らかそうなその唇に、思いっきり噛みつきたい。深く深くキスをして、俺のこの想いを分かって欲しい。 そっと指先で彼の唇に触れ、ゆっくりと指でなぞった。 ……ああ、もうダメだ。今すぐ、触れたい。 俺は一度だけ、と心に決めて少しずつ顔を近づけた。彼の唇との距離は残りわずか。 息を止め、バレないようにとそう思った時、寝ていたはずの彼が、突然目を開いた。

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