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遠く透き通った空に手を伸ばす 2
地面の上に直に寝転ぶなど、いつ以来だ。
遠く明るい空を見上げて思う。
青いな。
けれど、透明だ。
馬たちの駆けまわる地鳴り。
武器や具足の当たる音。
遠くから聞こえる騒然とした声。
けれど今一番聞きたい声がしない。
当然だ。
遠いあの場所に置いてきてしまった。
ただ一度、その身に触れて熱を分け合った。
それだけで、何も告げずに。
傷つけてしまっただろう。
ああ、でも、お前のことだから涙は流していないかな。
きっと、怒り狂っているにちがいない。
追ってこないかどうかだけが心配だった。
間に合った。
わたしはいくよ。
この身ひとつで。
遠い空に手を伸ばす。
ひらりと舞う、蝶が見えた。
好きだったよ。
大切だったよ。
自分を曲げられなくて、すまない。
血と土とあとは何かわからないもので汚れた手。
伸ばしても、空に届くわけがない。
蝶は飛んで行ってしまった。
もう、お前にも触れることはない。
最期に目に映ったのは、青い空と黒い蝶。
お前の面影を思いながら、目を閉じた。
<了>
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