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立ち尽くすあの人を見ていた 2

僕が王宮に伺候するようになったのは、昨年のこと。 まだ子供で半人前で、働くのかなんて、まだまだ先にならないと決まらない。 あちらこちらに回されて、仕事を一つ一つ覚えていく。 その中で向いているモノを探すのだそうだ。 今は小姓見習いとして、王宮の中で働いている。 時折見かける、近衛隊の鎧は、僕たちの憧れ。 いつか自分たちが身につけたいっていうことでも憧れているけど、お近づきになりたいっていう意味でも、憧れてる。 隊長殿がいいとか、騎兵隊の人がいいとか、小姓見習いたちの中では騒がしい。 僕が憧れているのは、本宮隊の分隊長殿。 分隊長殿は、伺候しはじめたころから、ずっと近衛隊におられたそうだ。 貴族の出ではないけれど、今では騎士扱い。 若いころ参加しておられた御前試合では、負け知らずの手練れ。 いつも冷たいと言われる顔をしているけれど、優しい。 僕だけじゃなくて、見習いたちはそれぞれ何度か、そっと助けてもらっているはずだ。 松風さま。 手を伸ばしても届かない。 欲しいと願っても。 あの人は誰のものなんだろう、そう思うときがある。 きっと、あの人の心の中には、誰かが住んでいる。 ずっと根強く。 別に決まった相手がいるわけではない。 浮いた話も聞かない。 かつてはそれなりに浮名を流していたらしいけれど。 ある時からぴたりと止んだと聞く。 ちょうどあの人が近衛の騎馬隊から本宮隊へ移った頃と、重なるらしい。 誰にもなびかず、ただ、耐えるように一人で立ち尽くしている。 ずっと見ていたから気が付いた。 時々、遠い空を眺めている。 何かを探すように。 その視線の先にあるものを、僕も見ることができたらいいのに。 夏の終わり、黒い蝶が舞いあがるのを見て、あの人が頬を濡らしていた。 ああ、その身を支えるのが誰でもいいのなら。 僕でいいのなら、僕はここにいるのに。 抱きしめて温めることもできない。 手を伸ばすこともできない。 あの人の気持ちは、ここにはないから。 ねぇ、いつかでいいから、僕を見て。 <了>

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