1 / 1

第1話

「登山道きれいになったなぁ! 登山口の下、人スゴかった・・・やっぱ道の駅効果かぁ」 「前はバス1日2本だったのに、便利になったもんだな」 眺望の良い高台に出た。ベンチに並んで水をあおる。 「8年ぶりか。お前もこっちだと思ってたのに、仕事まであっちって。ほんと薄情もんだな。めったに帰って来ないし」 だって耐えられなかったから。お前と友達でいることに。 「わ、この巨木覚えてる! 前もここで休んだよね」 梢がはるかに高い巨木、腕の回りきらない太い幹に抱きつく。 こんなふうに抱きつけたらね。 「帰りにこの上でお前こけたんだよな。ほんと肝冷えたわ。」 「あの時はごめんな。荷物と俺とで大変だったよな。ほんと頼りになるやつだって…めっちゃ尊敬しました!」 「なんだよそれ!」 お前の笑顔が辛い。胸が痛くて。あの時から堪らない。お前の顔を見るたびに胸が疼いて。 だから離れたんだ。 テントの前で、寝る前のお楽しみ。夜空見ながらのアイリッシュコーヒー。クリームはないけど、どぼどぼウィスキーを入れた。 「あったけ~~やっぱ大人はいいねぇ」 「最高だな」 夜空を仰いだままの優しい声に、震えが来た。 「う、寒~~」 一息に、ぶつけるようにお前の横に体を寄せる。 近すぎる?気持ち悪い・・・とか、思ってない…よな? ちらりと顔を仰ぎ見る。目が合う。けど、暗くて感情が見えない。    「さみーな・・・へへ」  肩を竦めて体を離そうとする。 「おわっっ」 背中に衝撃・・・肩に手を回されて抱き込まれる! 「お前肉ねーもんな。ちゃんと飯食ってんの?」 ああ、心臓が喉から出てきそう。声が震えそうで何も言えない。息が荒くなる。 こぼれそうになったコーヒーをふーふーと冷ますふりをしてごまかす。 満天星。星が落ちてくる、を通り越して、星空が俺に圧力をかけてるみたいだ。 帰ってきて良かった。肩に感じる重みと温かさ。諦めようと思ってたなんてね。 ここからは俺の頑張り次第。大丈夫。大丈夫だ、頑張れ俺。 「そういや、実家出てるんだよな?お前こそ飯どうしてんの?」 「飯ねぇ・・・コンビニとか吉牛とかつい行っちまうな。料理しねぇな」 「彼女が待っててさ、作ってくれちゃったりするんじゃねーの?」 肘で小突く振り。ちょっとこわばってるののごまかし。 「彼女か・・・ここんといないな。・・・ちょっと面倒だな、今は。お前とつるんでる方が楽しい」 ――息止まりそう。お前のそういうところ。 「ははは!そっかそっか。しょうがねぇなー。俺、こっちの仕事始まるまで自由人だからさ。晩飯作ってやろうか?」 来い・・・来い! 「マジ?お前料理なんかできんの?」 こっちを見る目が丸くなってる。 「ふふ、学生んときのバイト居酒屋だもんね。仕事してたときもずっと自炊!」 「おおー居酒屋メニューか⁉ わ、喰いてえーー 材料買うからほんと作って」 「オッケーオッケー。お前の都合に合わせるよ」 「やった!――次の火曜日直帰だな。火曜日どうだ?」 やった!はこっちだよ! よっしゃ。まずは第一歩。 餌付けしてやるからな。 覚悟してろよ。

ともだちにシェアしよう!