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第1話
「登山道きれいになったなぁ! 登山口の下、人スゴかった・・・やっぱ道の駅効果かぁ」
「前はバス1日2本だったのに、便利になったもんだな」
眺望の良い高台に出た。ベンチに並んで水をあおる。
「8年ぶりか。お前もこっちだと思ってたのに、仕事まであっちって。ほんと薄情もんだな。めったに帰って来ないし」
だって耐えられなかったから。お前と友達でいることに。
「わ、この巨木覚えてる! 前もここで休んだよね」
梢がはるかに高い巨木、腕の回りきらない太い幹に抱きつく。
こんなふうに抱きつけたらね。
「帰りにこの上でお前こけたんだよな。ほんと肝冷えたわ。」
「あの時はごめんな。荷物と俺とで大変だったよな。ほんと頼りになるやつだって…めっちゃ尊敬しました!」
「なんだよそれ!」
お前の笑顔が辛い。胸が痛くて。あの時から堪らない。お前の顔を見るたびに胸が疼いて。
だから離れたんだ。
テントの前で、寝る前のお楽しみ。夜空見ながらのアイリッシュコーヒー。クリームはないけど、どぼどぼウィスキーを入れた。
「あったけ~~やっぱ大人はいいねぇ」
「最高だな」
夜空を仰いだままの優しい声に、震えが来た。
「う、寒~~」
一息に、ぶつけるようにお前の横に体を寄せる。
近すぎる?気持ち悪い・・・とか、思ってない…よな?
ちらりと顔を仰ぎ見る。目が合う。けど、暗くて感情が見えない。
「さみーな・・・へへ」
肩を竦めて体を離そうとする。
「おわっっ」
背中に衝撃・・・肩に手を回されて抱き込まれる!
「お前肉ねーもんな。ちゃんと飯食ってんの?」
ああ、心臓が喉から出てきそう。声が震えそうで何も言えない。息が荒くなる。
こぼれそうになったコーヒーをふーふーと冷ますふりをしてごまかす。
満天星。星が落ちてくる、を通り越して、星空が俺に圧力をかけてるみたいだ。
帰ってきて良かった。肩に感じる重みと温かさ。諦めようと思ってたなんてね。
ここからは俺の頑張り次第。大丈夫。大丈夫だ、頑張れ俺。
「そういや、実家出てるんだよな?お前こそ飯どうしてんの?」
「飯ねぇ・・・コンビニとか吉牛とかつい行っちまうな。料理しねぇな」
「彼女が待っててさ、作ってくれちゃったりするんじゃねーの?」
肘で小突く振り。ちょっとこわばってるののごまかし。
「彼女か・・・ここんといないな。・・・ちょっと面倒だな、今は。お前とつるんでる方が楽しい」
――息止まりそう。お前のそういうところ。
「ははは!そっかそっか。しょうがねぇなー。俺、こっちの仕事始まるまで自由人だからさ。晩飯作ってやろうか?」
来い・・・来い!
「マジ?お前料理なんかできんの?」
こっちを見る目が丸くなってる。
「ふふ、学生んときのバイト居酒屋だもんね。仕事してたときもずっと自炊!」
「おおー居酒屋メニューか⁉ わ、喰いてえーー 材料買うからほんと作って」
「オッケーオッケー。お前の都合に合わせるよ」
「やった!――次の火曜日直帰だな。火曜日どうだ?」
やった!はこっちだよ! よっしゃ。まずは第一歩。
餌付けしてやるからな。
覚悟してろよ。
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