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灰色の恋

**市にある刑務所。軽犯罪者を主に収監しているここが大塚慎二の職場だ。 以前は他都市の刑務所に勤務していて、こちらに移ってきたのはほぼ一年前。 看守たちの目が鋭いのか、軽犯罪者たちばかりだからか、刑務所内で問題になる様な出来事はあまり起こらない。 それでも、たまに喧嘩は怒るのだ。その喧嘩にいるのはだいたいが彼だった。 「高梨ッ!またやってんのか、お前!」 胸ぐらを掴まれてジタバタしている囚人の目の前にいた高梨が振り向いた。背の高い高梨は、大塚を見下す様な格好になる。 「…あぁ、アンタか」 「アンタじゃない!何をやっとるんだ!」 大塚は腰にさしていた警棒を持ちながら怒鳴る。 「毎度のことですよ、ちょっとムカついたので」 対峙している囚人は大きく首を振り「違う」とアピールした。何にしろこの状態だと、高梨を止めなければならない。  「高梨、こっちに来い!」 その言葉に渋々手を下ろし、大塚の方へ近寄った。 「また反省文書かなきゃなんないの」 ニヤッと笑う高梨。 「そう思うなら、喧嘩はしないことだな」 大塚はため息を突きながら、高梨の手を引いた。 独居房へ連れて行き、頭を冷やせ、と大塚が勧めた。 個室になったこの部屋にはテーブルがある。そこで反省文を書くのだ。高梨は心得ているのか、すぐに部屋に入り座り込んだ。 「もう何回目なんだ。きっちり反省文描く様に」 「はいはい」 *** 高梨が喧嘩する度に、仲裁に入るのが大塚の仕事になっていた。たいてい騒ぎを起こすのは大塚が日勤の時だ。 「高梨は何で喧嘩っ早いんですかねぇ…」 看守の集まる部屋で、そう呟くと先輩である須賀が隣に座って話しかけてきた。 「あいつさ、前はあんなに喧嘩してなかったんだ。ここ最近だよ。一年くらい前から」 「え、そうなんですか」 コーヒーを片手に、大塚が驚いてると須賀が続ける。 「何かきっかけでもあったのかもしれんなぁ。元の刑期は長くないのに、喧嘩ばかりするから刑期が延びてるし」 本当ならもう出所してもおかしくない時期なのに、と語る。 「もったいないですね」 わざわざ刑期を自ら延ばすなんて、と大塚は呟いた。 *** その日も夕飯前にけたたましい音が響く。囚人達の騒ぎに大塚と須賀が駆け寄る。中心にいたのは高梨だ。他の囚人に馬乗りになっていた。 「高梨!!」 殴りかかろうとしていた腕を、大塚が止めた。 「んだよ!」 高梨は大塚を睨みながら、腕を下ろす。そして組み敷かれていた囚人を解放した。 「こっちにこい!」 お決まりの独房へと促す。大塚の後を高梨は項垂れながら歩いた。 独房に着けば、いつもと同じく、高梨は大人しく部屋の真ん中に座る。いつもであればそこで大塚は、鍵を掛けて離れるのだが、今日はふと声をかけた。 「なあ、高梨。お前なんで喧嘩するんだ?本来なら、もう出所できてるんだろ。以前はあまり喧嘩しなかったらしいじゃないか」 「…」 すると座っていた高梨が立ち上がり、大塚の方へ近寄った。 この距離はまずい、と避けようとした時。 「こうするためさ」 一発、鳩尾に拳を喰らった。 「グッ…」 衝撃に大塚の帽子が床に落ち、膝をつく。 (まずった…逃げられる…!) 鳩尾を庇いながら、高梨を見る。すると、高梨は逃げるどころかしゃがみ込み、大塚の顎を片手で掴んだ。 「半年以上、これを待ってた」 「…何言って…」 反論しようとした時。 高梨が大塚の顎を上げて、唇を重ねてきた。 「〜!!」 思いもよらない行動に、大塚は思わず高梨の胸を叩いた。 それでも怯むことなく、高梨はキスを続け、少し空いた隙間から舌を入れてきた。 「んー、んっ!」 離せと言わんばかりに胸を叩くが、一向に止める気配はない。どころか、空いた手で耳たぶや首筋に触れてきたのだ。 ゾクゾクっと背中が震える。 そして高梨はグッと大塚の身体を押した。膝をついていただけの身体は簡単に押し倒され、上には高梨が覆いぶさる。 「や、やめ…っ」 流石に大塚は、状況に焦りを感じた。 (何で、男なのにこんな…!) 唇を離し、うなじを舐める。生き物のように移動して、耳たぶまで舐められる。 大塚の手は高梨の左手で頭の上に一つにまとめられた。 「アンタは知らないだろうけど、こっち勤務になった日から、狙ってた」 「は、あ?男だぞ」 「…悪りぃな、オレ両刀なんだよ。で、アンタは…」 フッと耳に息を吹きかけ、大塚の身体が揺れたのを見る。 「もろ、好みってわけ」 *** 大声で助けを呼ぶこともできたが、大塚はそれをしなかった。羞恥が先に浮かび、声をあげることができない。 それをいいことに、制服を脱がせて、シャツを下着ことたくし上げる。あらわになった胸元を舐めながら、乳首をキュッと摘むと、大塚は身体を揺らした。 「ひ、っ!」 「いい反応だね」 「…お前、上にカメラもあるんだ、ぞっ…」 途切れ途切れに反論する大塚に、高梨は上から微笑む。 「別に、ばれてもいいさ。俺は出所しても、誰もいないんだよ。親も兄弟もな。だから別に出なくてもいいし。むしろアンタの顔が見たいから出たくないかな」 と高梨が言う。 ついっ、と高梨の手がズボンの上から触れてきた。 「感じてんじゃん」 「…!」 半勃ちになってしまってるそれを弄りながら、そっと下着に手を入れる。 「あッ!」 思わず声が出て大塚は焦る。高梨はその様子を見て、満足そうだ。 「いい声、聞かせてよ」 高梨は手を動かし、大塚のそれをシゴいていく。大塚は何とか声を上げまいとするが、だんだんと余裕がなくなってきた。高梨の手にぬるぬるとシゴかれてしまい、完全に膨張したソレが辛くてたまらない。 「やめ、ッ…、ああ、ッ」 「辛いだろ、なあ」 おもわずうなずく大塚。 「だけどまだまだイっちゃ、ダメだ」 大塚が高梨を見ると、紅潮していた。彼もまた自分自身のそれを大きく膨張させている。 「なあ、オレの中にこれ、入れて」 「は、はあ?!」 少しばかりとろんとしていた大塚が、思わず自分に跨ってる高梨の方を見た。 襲われてるからには、てっきり自分が入れられてしまうと恐怖を感じていたのに、まさかの「入れろ」だなんて。 だいたい男に入れるなんて…考えたこともない。 「アンタはそのままでいいから」 そう言うと、下半身を露わにした高梨が、大塚に跨ってゆっくりと腰を下ろしてきた。 「ちょ…!」 大塚のソレを高梨は己のナカに誘ってゆく。あまりのキツさに高梨も大塚も、顔をしかめる。 「く…ッ、あっ…」 入れろといってきた本人が辛そうにするなんて、と思いながら、だんだんと高梨のナカが気持ち良くなっていく。 しまいにはこのままではなく腰を動かしたいとえ思ってきた。 (何だこれ…ッ、すごい) 高梨は慣れてきたのかゆっくり上下運動を始めてきた。 どこからとなく、淫靡な音が独房に響く。  「あ…ッ、やっぱアンタの、気持ちいい」 満足そうな笑みをしながら動く高梨に、大塚はゾクリとした。と、同時に高梨の中にいるソレが大きくなる。 「…アンタも、感じてんじゃん」 高梨は満足げに笑う。大塚の意識はもう、目の前の快楽にやられている。 「はぁっ、あ…」 とうとう大塚は自分も腰を動かして、高梨の身体を突いていく。もう抗えないのだ。 「ん、あっ、あっ…ああっ、」 もう規律も羞恥も何もかかも忘れて、目の前の快楽を貪る。 二人が頂点に達しようとしたとき、大塚の手を強く、高梨が握っていた。 *** それから数回目の冬。 雪が降りそうな寒空の下、重い扉が開かれた。 「高梨、もうくるんじゃないぞ」 ボストンバックを持った高梨に、須賀が話しけた。 刑務所内で髪を短く切り、こざっぱりしたのは今日の出所を前向きにするためだ。 「色々お世話になりました」 「まあ最近はもうなかったが…喧嘩、すんなよ」 最後に少し砕けた須賀のその言葉に、高梨は少し笑う。 一礼して、高梨は刑務所を後にする。 肌を突き刺さすような、冷たい空気に高梨は身を振るわせる。刑務所から続く長い直線の道を歩いていると、目の前に一人の男が立っていた。 「…よぉ」 そう言うと、男は高梨のボストンバックを持ってやる。 「軽いから大丈夫だよ」 「今日だけたぞ。こんな優しいの」 「…明日からは冷たいの?せっかく一緒に住むのに」 そう言うと、男…大塚と高梨は笑い合った。 大塚は高梨の身元引き受け人となり、出所した高梨を迎えにきた。看守を退職して。 何故そこまでしてやるのか、大塚自身にも分からなかったが、気ががつくと行動に出ていた。 情事を重ねるごとに、高梨の深みにはまったのかもしれない。それは身体だけではない。 たとえそれが高梨の作戦だったとしても、大塚はこれで良かったのだと考える。 「今晩は祝いに鍋だな」 「おっ、いいね」 【了】

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