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第1話

 今日は日中からかなり冷え込んでおり雪もよいだった。窓の外からは、商店街で流しているクリスマスソングが遠く聞こえて来る。あと数日で今年も終わりだ。  明日がクリスマスイブ。恋人たちの大事な日はホワイトクリスマスになりそうだった。  バイトから遅く戻った敬介を迎えて、ぬくぬくとコタツにあたっていた直人は甘えた声を出す。 「敬ちゃん。今日泊まってっていい?」  イブはケーキを買って一緒に過ごす約束をしていた。なのにその前の日でも一切の遠慮もなく直人は敬介の部屋に入り浸っている。部屋の持ち主がバイトでいないのに勝手に上がり込んで待っていたのだ。  なにしろ、冬休みに入ってからはほとんど顔を出していると言っていい。 「あー。お前最初からそのつもりで来たんだろ。明日約束してたし」 敬介は戸棚からウイスキーボトルを取り出しながら、直人の思惑を指摘した。  戸野倉敬介は大学2年生。隣の家の志木直人とは2つ違いだ。  小さい頃から直人は敬介が大好きで、面倒見のいい敬介にべったりついて回っていた。思春期を迎えてもその思いは変わることなく、むしろエスカレートして今に至る。  告白したのは直人のほうからで、常識派の敬介はだいぶ躊躇していた。本当は敬介も直人が大好きだったのに。抱きしめたいと思っていたのに……。  男同士のつきあいに抵抗感があったのだ。普通でないことが互いや周りを傷つけるのではないかと憂慮していた。  むしろ、そういう可能性を考えもせずに真っすぐに飛び込んで来る直人の幼さと無防備さとが、心配であり、また愛しくもあった。  実はたぶん、直人が敬介を好きになったのより、敬介が直人を好きになったほうが早い。 直人のくりくりと大きな瞳はいつも好奇心に満ちて輝いていた。柔らかな髪やあどけない唇。なによりも恐れを知らない真っすぐさが好ましかった。  ほんの小さい頃から可愛くてたまらなかったのだ。直人が大切過ぎて、そういう関係になることに敬介は自分で自分の気持ちに蓋をしていたのかもしれない。  やがて、直人の無鉄砲な熱意にほだされる形でふたりはつきあいだした。男同士で、心も身体もひとつになったのは、  忘れもしない2年前のクリスマスイブだ。だから明日は大切で思い出深いふたりにとっての記念日なのだった。  一日前乗りでやって来ても断られるはずがないと見込んで遊びに来ているのだから、ちゃっかりしている。いつも着替えを何着も置いてあるし、もしかしたら何日でも居座るつもりかもしれない。もちろん敬介だって、直人の近くにいられるならまんざらでもないのだが。  少し考えに浸っていた敬介のジャージの袖を、直人の指先が引っ張った。 「えへへありがと。それから、あのね。風呂はもううちで入ってきたから」  セーターの首元に片手をあてて引っ張りながらの自己申告。はやく敬介が欲しいというジェスチャーでのアピールだった。 「お前なに考えてる?」 「なにってナニだよ。今日はしたいなぁと思って」 「今日はじゃなくて、今日もだろ」  若いふたりは見境がない。直人が冬休みに入ってからはしてばかりだ。 「ダメ?」  不安げな上目遣いで問いかけられて、敬介は口元に笑いを乗せる。 「ダメなことはないけど……。お前ずいぶんエロくなったよな。最初は『痛い痛い』って大騒ぎしてたのに」  昔を思い出していやな笑いを浮かべるのを、恥ずかしそうに直人は遮った。少し怒っている。 「かっこ悪いからそれは忘れてよ」  憮然となって言うのも可愛らしいと、啓介は軽いキスで直人の髪に触れた。 「そんな子供だまし」  不満気にくちびるを突き出すので、なだめるくちづけをそっと与える。  甘い瞬間。  軽く何度も触れる優しいキス。 「キスって、どうしてこんなに気持ちがいいんだろう」  ほおっと頬を火照らせて嬉しそうに直人は呟いた。  そのまま先に進みたそうな雰囲気だったが、夜といってもまだ早い。  階下の家人たちもまだ起きているだろう。  敬介の部屋はリビングの真上なので、両親にははやく寝室にうつって就寝して欲しいところだ。 「まあもうちょっとのんびりしようぜ。俺も少し飲みたいし」  顔の前にボトルをかざす。 「あ、俺も飲みたい」 「ダメだ、未成年。調子に乗るな」 「はーい。俺オレンジジュースで我慢します」  内心しぶしぶながらも、直人は一応聞き分けのいい返事をしていた。あまりわがままを言って肝心の希望がかなわないのでは困るからだ。 「氷がないな。ちょっと取ってくる」  敬介は立って行って窓辺によると、カーテンを引いて外を伺った。雪はひたひたと降り続けまだまだ積もりそうだ。 「だいぶ積もったな。屋上で雪取ってくる。待ってろよ」  氷代わりに雪を使おうというのだった。 「俺も一緒に行く」 「寒いからこたつ入ってろ」 「やだ、敬ちゃんといっしょがいい」  ほんとうに甘えん坊だなと思いつつ、頭を手で軽く小突く。 「えへ」  直人は舌をペロッと出して笑った。  不思議だ。  ほかの人間にされたならイラっと来そうなものなのに、直人がすると微笑ましい。これが惚れた弱みというやつか。 「俺、ほんのちょっとの間も敬ちゃんと離れたくないんだ」  熱っぽい視線をして直人は訴える。そして指に指を絡めてきた。  しょうがない。  敬介は断り切れず要望を受け入れた。 「コートはおって、お前もグラス持って来い」 「わーい」  無邪気に浮かれる様子すら愛しくてたまらない。  敬介は思う。  自分はすっかり毒されてる、と。  明日、明後日と敬介はバイトを入れなかった。かきいれどきなのに休みを取らせてもらったのは、アニバーサリーが好きな直人のためだ。その分正月には多めにシフトを入れている。  甘すぎるのかもしれない。 それでも敬介には、ぴったりとくっついて来る直人に注意を促すだけの理性はあった。 「危ないから階段では手はなせよ」 「分かった」  鍵を開け屋上に出るとしんとした寒さに一瞬襲われた。  直人は歩を進めて柵の近くまで行き大きな声を出す。 「うわ、凄いね。一面銀世界だ」  大きく手を広げて息を吸い込んだ。  見下ろす道も、家も、遥か先まで真っ白だった。  柵の上に積もっている雪をすくって硬く握る。そうしてから、敬介はロックグラスにその塊を数個入れていった。 「上のほうすくえよ。あんまり下だと埃やごみが入るから」 「うん、分かってるって」  手がかじかみそうになりながら、直人もグラスに雪をすくった。こちらは、崩れそうなぐらいこんもりと高く盛り上げている。 「これならオレンジジュースじゃなくてかき氷にしたらいいね。あ、ねえ、敬ちゃんちカルピスある?」 「ない」 「残念」  さして残念でもなさそうに笑う顔が可愛いかった。 「俺この屋上大好き。だって敬ちゃんとはじめてキスしたのはここだもん」 「そうだな」 「明日、記念日だって分かってる?」 「なんの」  敬介はわざと意地悪をしてみる。思った通り直人はふくれた。 「とぼけないでよ。俺たちの初エッチ記念日だよ」 「もうちょっと別の言い方ないのか」  苦笑しながら屋上の扉を開けて部屋に戻ろうとする。背後から温かいぬくもりが抱きついて来た。 「敬ちゃん大好き」  迷いのない声。  真っすぐな思い。 「ああ、俺もだよ」  そのまま向かい合って抱きしめ合う。 熱を伝え合う。  そして雪の中、静かで厳かなキスを長いあいだ交わしたのだった。  部屋に戻り、ふたりは甘いキスを繰り返している。 「あんまり飲んじゃだめだって……」  敬介の口内はウイスキーの匂いが漂っている。慣れない直人はキスだけで酔いそうだ。  また一口、敬介はグラスを口に運んだ。すかさず直人が釘を刺す。 「泥酔するまで飲んじゃだめだよ」 「大丈夫だ。舐める程度だよ」 「ほんとに気をつけてよ。あんまり飲むと勃たなくなるっていうし」 「そっちの心配か」  やれやれと敬介は苦笑する。 「そういう訳じゃないけど……」  やりたいばかりの自分が恥ずかしいと言いたげに直人は視線を落とす。 「反省します」  しゅんとしてしまった。  年齢的にもやりたい盛りなのだから仕方がない。 それでも、この状態は少し厄介だと敬介は気になっていた。  ずっと心に引っかかっていることがある。 「ごめんな、直人。大事なことだから、俺の考えを言わせてもらってもいいか」  態度を改めて切り出していた。  ぴんと張り詰めた空気に、直人も思うところがあるのか黙って敬介の声を待つ。 「ほんとはな、そんなことばかり考えてちゃだめなんじゃないかと思う時がある。お前はもっと将来のこととか、今しか出来ないこととか……」 「敬ちゃん」  また始まったと直人は渋面をつくった。  敬介は保守的で心配性なとこがあって、たまにこむずかしいことを言い出す。頭が固いし、直人から見たら冷静すぎる。  今だっていいムードだったのに、これではぶち壊しだ。 「うるさいなぁ。ちゃんと考えてるって。大学だってもう推薦とったから受験しないでいいし、来年の春には無事敬ちゃんの学校の後輩だよ」  自慢げな様子だ。 「お前エロばかり考えてるのに頭いいからな」 「失礼だなあ。違うよ。敬ちゃんの大学いきたいから頑張ったんだよ。ほめてよ」 「分かった。ほめてやる。えらいえらい」 「うわ、心がこもってない」  なげやりに返してその口にオレンジジュースを流し込む。 「だけどなあ、直人。もっと友達と遊ばなくていいのか」 「なんで」 「俺とばかりいちゃだめだろ」 「別にいいじゃない。俺、敬ちゃんが好きなんだもん」  気にした風もない。  純粋で一途で透明な感情。  それはすとんと敬介の胸に落ちて来る。 「他の人間なんて関係ないし」  ある意味冷淡なことをあっさりと呟いて直人はくちびるをすぼめた。クッションをぎゅっと胸に抱きしめている。 「俺はそれが怖いんだ。そういうとこ、お前は危なっかしいから」  あまりに一途で心配になる。  そうして一途に思って独占しようとしてくれているのを、うれしく思ってしまう自分がいる。  相手を思い過ぎて縛りつけたいのは、実は敬介のほうかもしれなかった。 「俺はたいした人間じゃない。なのにお前は俺のことばかり追いかけてる。俺のことばかり考えてる。俺とばかりいたがる。極端すぎて怖くなる」 「どうして」 「俺たちは男同士だし、俺はお前を幸せにできるか分からない。最近はカミングアウトする人も増えてるが、うちの両親は頭が固いからそういうの絶対に無理だ。理解できないだろう」  周りからの偏見や悪意で直人に傷ついて欲しくない。 「でも、最近では同性婚だって認められてるじゃないか」  反論する直人は必死だ。  世の中の風潮はだいぶ緩和されているようで、日本でも同性カップルの話題も聞かれるようになった。結婚だって夢じゃない。 「お前のまわりに実際にそういう人たちがいるか。本当に心から理解し祝福されているか?それはまだ上っ面だ。影でなに言われてるか分からない」  自分はなにを言われても耐えられるが、直人が傷つけられる訳にはいかない。  守りたいのだ。  その気持ちが、敬介を理性的に、そして臆病にしてしまう。  直人はすっかり拗ねて深くこたつにもぐりこんだ。首だけ出して訴える。 「敬ちゃん。あのね。俺、幸せにならなくてもいいんだ。誰かに認められなくたっていいんだ。敬ちゃんと一緒にいられればそれでいいんだよ」 「直人……」 「俺だってバカじゃない。そういうこと考えたよ。頭痛くなるほどずっと考えた。考えて考えて、結局俺にとって一番大事なのは敬ちゃんだけだって分かった。敬ちゃんのいない人生なんて意味がない。もしも敬ちゃんがこの世からいなくなったら、俺もいなくなる。他の奴らなんて関係ない。敬ちゃん以外の奴らと遊んでる時間なんてもったいない」  熱意を込めての訴えに圧倒され、敬介はまともに言葉を返せなくなった。 「俺小さい時から敬ちゃんが好きだったけど、決定的になったのは学校でいじめにあった時からだよ。『オカマ』って言われて傷ついて泣きついた俺に、敬ちゃんは負けるなって励ましてくれた。守ってくれるだけじゃなくて、俺自身が強くならないとだめだって諭して応援してくれた。その時から俺の恋心は本物になったんだ。元から好きだったけど大好きになった。だから俺はいつだってずっと敬ちゃんといられたらいいなって思ってる」 「直人、お前」 「敬ちゃんがそういう風だと俺まで不安になる。俺ばかりが敬ちゃんを好きなんじゃないかって、むなしくなる」  切ない眼の色をして直人は敬介をひたと見つめている。 「そんなことはない。俺だって直人が好きだ。俺は、俺たちふたりのことを真剣に考えてるんだ。真剣だから心配になるんだ」 「分かってる。敬ちゃんの言いたいことは俺にだって分かってる。でもだからこそ敬ちゃんと深く結びつきたい。抱きしめ合いたい。SEXしたい。そうしたら俺は安心できるから……」  敬介は泣き出しそうな直人をこたつから引っ張り出した。 「抱いてよ、敬ちゃん。俺のこと愛して」  しがみつく指が震えている。 「直人……悪かった。不安にさせたな」 「常識人で慎重すぎて後ろ向きなとこは、敬ちゃんの悪いとこだよ」 「非常識で無鉄砲で真っすぐ突き進むお前とは、正反対だな」  ふたり目と目を見かわしてくすりと微笑み合う。  それから、どちらからともなく唇を寄せ合った。その姿はなによりも自然だ。  世間的には不自然な関係であっても、彼らにとって、求めあうのは当たり前のことだった。 「ベッド入ろうか」 「うん」  待ってましたと言わんばかりに、直人はいそいそとセーターを首から引っこ抜いた。 「自分で脱ぐなよ。俺にも脱がせる楽しみってものが……」  敬介が不満を伝えるとキョトンとした顔を見せる。 「ごめん。じゃあもう一回着る」  言ってまたセーターをかぶるのを敬介は慌てて止めた。 「いや、もういいって。今更」  即物的な態度に、情緒もなにもないなと思って笑いがこみ上げてくる。  でもそこが可愛い。  愛おしい。  こんなにも大切にしたい人間は、敬介の人生の中でもう二度と現れないだろう。 「直人、大好きだよ」  低い声での熱烈な囁きに、幼い恋人は頬を染めてはにかんだ。  性急にベッドにもつれ込んだふたりは電灯の元で絡まり合っている。  明るくて恥ずかしいけど燃えるシチュエーションだ。  キスから始まった行為は、手順を踏んでゆっくりと進められていた。 「ん、んっ……そこだめ。敬ちゃん……あっ」 「なんでだめなんだ。気持ちいいくせに」  敬介の舌は直人の乳首をレロレロと舐めまわしている。  しつこいくらいに舐め続け、やがてそれは硬く舌を押し返してきた。  直接的な反応に目尻が下がる。 「自分からしたいって煽ったくせに、いざとなると恥ずかしいのか」 「だって」  広い胸の中で気持ちよさそうに直人は顎をそらす。感じて、吐息が甘くなっていた。 「俺……女の子じゃないのに……、乳首でこんなに感じちゃうの……やっぱりおかしいのかなっ……て」 「それいつも気にしてるよな。男でも感じる奴は感じるっていうぞ。おかしくない」  断言してやるとあからさまにほっとした顔を見せる。 「ありがと、敬ちゃん」  思えば敬介はいつも直人のことを肯定してくれていた。  いじめにあった時も『直人は一ミリも悪くない』と断言してくれた。  そして思いを伝え続けた直人をいつしか受け入れてくれた。  ありがたくてうれしくて泣き出した直人を優しく抱き締めてくれた。  そのぬくもりがすべてだ。  直人にとって敬介がすべてだ。  それ以外のものなんかいらない。  直人は敬介の頭を抱いて、頭頂部にチュッと音を立てて感謝のキスをした。 「好きだよ。もっと気持ち良くさせて」  言葉で乞われて火がついて、再び敬介からの熱烈な愛撫が始まる。  首筋から胸の真ん中へと舌で探り、時間をかけてへそにたどり着いた。焦れたように直人の下腹が脈打つ。 「ここもいいんだろ」 「あ、あ…ん」 「どこもかしこも敏感だな」  へそから横に脇の方まで愛して、また戻ってくる。そして今度は反対側に。丹念に丹念に、くちびるを押し付けていく。 「敏感なのは……ん、あん……敬ちゃんが、してくれるから……」  だから感じるのは当たり前なのだと言い訳して、淫らな欲望を甘受する。  直人はその心根と同じように身体も素直だった。 敬介は直人の腰骨にそってくちびるで触れていく。骨の上、皮膚の薄いそこも直人には辛いほど感じる場所だ。  目をかたく瞑りくちびるを震わせている。 「ああっ……敬ちゃん。俺…、勃ってきちゃった」  すでにさっきから反応しているのには敬介は気づいていた。 「はやく、触って」  可愛いおねだりにこたえて手で直人のペニスを包み込む。 「もう先っぽが濡れてる」  指摘すると、直人はいじましい表情で睨みつけてきた。 「しょうがないだろ。敬ちゃんの舌とかくちびるとか、エロいんだもん」 「エロいのお前のほうだ。こんな淫らな身体して」 「俺を淫らにしてるのも、みんな敬ちゃんじゃないか」  反発してやり返す。  恋人同士のやり取りは甘く際限がない。 「ねえ……俺、はやく欲しいよ。敬ちゃんはまだその気じゃないの?」  積極的な手が敬介の下腹を探った。  手に触れる布が邪魔くさくて不満だと、乱暴に下着を引っ張る。 「はやく脱いでよ」  せっかちで奔放な希求にこたえて、敬介は下着を取って肌と肌とを直に触れ合わせた。手の中に収めた互いの性器を擦り合わせる。 「ん、それ……気持ち、いい……」  直人は腰を前に突き出すようにして快感を追っていた。 「敬ちゃんの、硬くて……熱い………」  息が乱れている。 「お前もだよ」  囁いたくちびるが直人のくちびるをふさぐ。  甘く、そして強引に、ふさぐ。  息が苦しいとしがみつく腕さえ愛おしかった。 「あ、ああっ………。もう、入れて欲しい…よ……」  伸し掛からんばかりに求める身体は発情してとろけそうだ。 「一回抜いてやるから、ちょっと落ち着け」  敬介は直人のペニスを擦り上げ解放をうながす。 「俺、イっちゃうぅ……」  泣き声すら愛しくてたまらなかった。手の動きが速くなる。 「敬ちゃん好き、好き…ぃ……。あああっ!」  敬介の腕の中で直人は声を上げて達した。 「ああ、あぁ……」  荒い息をおさめるように直人は逞しい胸に頬を押し付ける。 「膝立てて、少し腰浮かせて……」  促して、放たれた精液を使って敬介は直人の肛門を濡らし始めた。  抵抗はわずかですぐにそこはやわらかくなる。  派手にひとりで達してしまったことが恥ずかしかったのか、直人はくちびるを噛んで声を漏らすまいとしていた。 「直人。声、聞かせて」 「………」 「俺の名前、呼んでごらん」  いやらしい腸内を中指で撫でまわしながら卑猥な声を出す。直人の身体がぴくぴくと痙攣した。 「敬ちゃん、入れてよ……。ぁっ…あん。このままじゃ……俺、おかしくなっちゃう」  自分から腰を揺らす淫乱なさまは、敬介の股間をさらに熱くする。 「俺、無茶苦茶されたい……。敬ちゃんのおちんちんで、俺の身体……ばらばらになるほど、犯されたい」 「直人……。そんな台詞言われたら、俺だってもう……我慢できないよ」  熱い吐息で囁いて敬介は体勢を整えた。赤みを帯びたすぼまりに自身の欲望の証を突き立てる。 「うああっ!」 迎え入れる直人の脚が跳ねあがり腰に絡みついた。 「もっと……、もっと奥、ちょうだい。敬ちゃん……敬ちゃん………」  ねだられて、敬介の腰は激しく前後する。しかし、その動きをしばらく繰り返すうちに、直人は辛そうにうめいて涙を流し始めたのだ。 「直人、泣いてるのか」  驚いて動きを止める。直人の目尻を涙が伝って行く。 「痛いか」  思いやる優しい響きに直人は首を振った。 「違う。俺、うれしくて……」  快感に飲まれた舌足らずな声で、必死に自分の感情を伝える。 「すごい、幸せで……」  言いたいことを理解して敬介の胸も熱くなった。 「敬ちゃん好き……」 「俺もだ、直人」  忙しない息を繰り返す唇を、思いの丈ごと強引に奪う。  舌を入れて苛んだ。  ふたたび始まった激しい律動に振り落とされないように、直人の腕が敬介の背中に回る。 きつく、きつく、抱きしめる。  上も下もすべて密接につながり合ったまま、ふたりは幸福な快楽に溺れて行った。  あまりに疲れて裸のまま眠ってしまった。それほどふたりの行為は激しかったのだ。  うとうととしたまどろみを耳障りな電子音が引き裂く。犯人は直人のスマホだった。 「なんでこんな時間に目覚ましかけてんだ」  びっくりして動転している敬介の横で、猫のように丸まって寝ていた直人が伸びをする。  布団がずり落ち白い肌が赤裸々にさらけ出された。 「よかった。目覚ましかけといて」  あくびを噛み殺しながら直人はスマホの目覚ましを解除する。 「少しは考えろ。下まで響いたらどうする」  ふたりとも裸でベッドで寝ているのだ。家人に見られたら申し開きは出来ない。 「うん、ごめん。どうしても起きなきゃいけないと思って……」 「なんで」  返事はせず、直人はベッドからよろよろと起き上がった。 「腰、大丈夫か」 「うん、平気」  気遣う敬介に、愛されて満ち足りた柔和な顔を見せて直人は誘う。 「屋上行こうよ」 「こんな時間に屋上?寒いぞ」 「こんな時間だからだよ。もう少しで24日になる」  直人の視線の先でスマホは11時45分を示していた。 「俺、はじめてキスしたところで、敬ちゃんとふたりで記念日を迎えたかったんだ」  だから直人はクリスマスイブの前の日から泊まりに来たのだ。  その気持ちを察していじらしさに敬介は感動する。  だから、とびきり優しいトーンで囁いていた。 「明日は一日中一緒にいような」 「一日中、一緒に、何するの?」  ほくそ笑むような問いかけ。 「直人のしたいことだ」 「俺のしたいこと」  そんなの決まってると言わんばかりに直人のほうから敬介のくちびるを奪う。 「敬ちゃんと一日中エッチがしたい」  そして敬介は、直人の率直で小悪魔的な微笑にすっかりノックアウトされてしまったのだ。  思わず、まだまだ抱きしめ足りないような気持ちになったが、たくさんの絶頂を経てさすがに欲望は頭打ちだった。  それにあまり時間がない。  ふたりは素早く身支度を整えて念入りに防寒をほどこすと、屋上への階段を静かにのぼっていく。  外は暗く、冷え込みが厳しい。屋上に出て、どちらからともなく寄り添い合った。並んで、暗く低い空を見上げる。 「雪やんだね」  静まり返っている真っ白な世界に彼らふたりだけが存在しているかのようだ。  スマホの画面は11時57分。もう少しで記念日を迎える。 「敬ちゃん。いまさらだけど、俺の気持ちを受け止めてくれてありがとう」 「直人」 「俺、甘ったれで、いつも敬ちゃんとエッチすることばっか考えてて、どうしようもないけどさ。つまりそれは敬ちゃんに本気だってことだから……」  だから分かって。  呆れないで。  好きでいて。  横から覗き見る瞳がそう伝えて来る。 「ありがとう。うれしいよ」  寒さから守るように、敬介は直人の小柄な身体を引き寄せた。肩に手を置き自分のほうを向かせる。 「敬ちゃん好きだよ」 「俺も、大好きだ」  そして長い時間をかけて、心のこもったくちづけを交わし合った。  舌を絡め、口内の熱を交換し合う。 「……、ん………ぁっ」 濃厚で甘美な触れ合いの中、ふたりは最高に幸せな心持ちで24日の記念日を迎えていたのだった。 END

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