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忍ぶれど 第5話
――何考えてんだ、こいつ。
ズリ落ちそうになった鞄を、なんとか指先で食い止める。顔を引きつらせる俺に、弘人は「いや、あのさ」と両手を小さく上げた。
「ホント、悪かったって。次からはちゃんと、学んどくから」
俺を宥めるように「降参」と上げられていた両手が、「神賭けて」と片手に変わる。
勘違いに勘違いを重ねる弘人には、もう呆れて溜め息しか出ない。何度やっても、こいつは絶対、同じ間違いをやらかすのに決まっている。
不機嫌を隠さず「バーカ」と顔を逸らせた俺に、「だってよー」と微かな声が返った。
「お前と行くの、マジで楽しみにしてたから……」
最後には消え入りそうな声で、俯く弘人の頭をバシリと軽く叩いてやる。再び歩き出した俺の少し後を、弘人はトボトボと付いて来た。
目の端で捉えると、今俺が叩いたばかりの頭をさすっている。
どーせ、「俺、そんな悪い事したかなぁ」とか考えてるのに違いねぇ。
歩くスピードを少しだけ落とし、弘人の手を弾いて代わりにゴシゴシと頭を撫でてやる。
「んな強く叩いてねぇだろが」
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