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幸福な煩悶

年末年始は、俺も朔ちゃんも仕事は休みで、毎年大晦日から年明け2日まで、朔ちゃんの実家で過ごしている。 朔ちゃんのご両親とお義姉さん、朔ちゃんと俺で正月を迎える準備をし、年越し蕎麦を食べながら歌番組かバラエティ番組を見る。近くの寺から聞こえてくる除夜の鐘で、もうすぐ年が明けるのだと実感させられ、けれどもいざ新年が訪れると、どうしてか拍子抜けしてしまう。一瞬、胸のなかが空き、何もかもがなくなってしまった気がする。あの不思議な感覚はなんなのだろう。 それでも、大切な人々とこたつを囲い、あたたかな笑顔を向け合って年明けを祝えば、今年もきっと色んなことがあるだろうけど、幸せに過ごせるに違いないと思える。 朔ちゃんや彼の家族が、孤独に苛まれそうになる俺を連れ戻してくれる。 独りじゃないと思わせてくれるのだ。 「馨くん、今年もよろしくね」 今年もほろ酔いのお義母さんが、俺の手をそっと握り、優しく微笑んでそう言った。 俺も例年どおり、微笑みを返しながら、堪えきれない涙を流しながら、ゆっくりと頷いた。 1月2日の昼には、朔ちゃんと暮らすマンションに戻って、時間を忘れて抱き合う。 毎年毎年、飽きもせず、貪れど貪れど欲しがって。 「……あっ、あン……、イクっ……イッちゃう……!」 背後から朔ちゃんのペニスで結腸を突かれて、俺は何度目かの法悦に浸る。 比喩ではなく、本当に天に昇ってしまいそうで、もしそうなったとしたら、それでもいい、なんて本気で思ってしまえるほどの快楽に脳も身体も犯される。 朔ちゃんを置いて絶対に死にたくない、まだもっと生きていたい。 なのに、それと相反する思いで胸裏は満ち満ちているから、何ともままならない。 直腸の壁に朔ちゃんの体液がかかるのを感じ、全身が熱と歓喜に震えた。 朔ちゃんはとびっきりの甘い掠れ声を漏らしながら俺の裸体を後ろから抱きしめ、身体をぐっと固くしていた。 やがて弛緩し、ゆっくりと俺から離れていく。 下品な音を響かせ、俺の穴から朔ちゃんのザーメンが溢れてくる。 少しばかり羞恥に顔を赤くしながら、シーツにくたりと身体を横臥すれば、朔ちゃんも横に寝転がってきた。 「……馨」 「ん……」 おもむろに朔ちゃんの濡れた唇が寄せられたので、首をわずかに上に向け、彼の口づけを受け容れる。舌がぬるりと入ってくる。乱れた吐息と粘ついた唾液を分かち合ううちに、性器と排泄器官が疼いてきた。 「……ん、ふ……さく、ちゃん……」 「……なに?」 唇と舌を戯れさせながら、俺たちは至近距離で見つめ合う。 「ちょっとだけ休憩したら、もう一回しよ……?」 そう誘って、俺の貧相な太ももに触れていた朔ちゃんの陰茎をやんわりと握る。朔ちゃんはかすかに眉を歪めて、細めた目に恍惚とした色を滲ませた。 「もっと、朔ちゃんと繋がってたい……」 「馨」 キスは深く、熱くなる。朔ちゃんは切なげな声をこぼしながら、俺の口腔を愛撫してくる。それに必死に応えながら、俺はぽろぽろと泣いた。 愛おしい。愛おしくて、しょうがない。 浅ましく朔ちゃんを求め、涙を落とすことしかできない自分が、歯痒くて憎らしい。 幸福な煩悶だ。逃れたいのに、逃れられない。解放されたいのに、されたくない。 恋は病いで、愛は犠牲とは、よく言ったものだ。

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