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25.闘う君は
上下に跳ねながら間合いをはかり合っている。暫 くは膠着 状態か。思った直後、頼人 が踏み込み――次の瞬間には咆哮 が響き渡っていた。
発したのは頼人であるようだ。猛々しい。普段の彼とはまるで違う。
「今のは上段にパンチが入ったから1ポイントだ」
最上 はそう言いながらルーカスを解放した。撮影に戻ってくれていいということなのだろう。急ぎシャッターを切りながら尋ねる。
「上段って、頭のことですか?」
「厳密に言うと首から上のことだね。中段は腹と背中。それより下は無効」
最上の解説で1ポイント:上段・中段への突き、2ポイント:中段への蹴 り、背面への突き・蹴り、3ポイント:上段への蹴りということが分かった。
「なるほどですね――っ!?」
思わず目を疑った。左手で拳を流した景介 が、頼人 の頭部目がけて回し蹴りを見舞ったのだ。周囲から大歓声が上がる。
「あれが白渡 のスタイルだ」
「えっと……カウンター型ってことですか?」
「そーゆーこと。対する武澤 は――」
「攻め」
「さっすが狭山 チャン分かってるねぇ~」
「じゃっ、じゃあ、ケイ……白渡君の方が有利ってことですか?」
頼人は追い込まれていた。攻めれば攻めるほどに強烈な反撃を受けている。点差は広がる一方だった。
「そう。だから、白渡にしたんだろうね」
どういうことだ。首を傾げると、照磨がふっと口角を上げた。
「やはり、この試合は監督の?」
「そ。俺のわがまま。誰でもいいから戦ってみせろってね」
理解した。頼人の困り顔の訳を。
「お陰でいーもん見れたっしょ?」
「はっ、はい!」
「あっはははっ!! ……ってもまぁ、あんなんまだまだ序の口なんだけどね」
「えっ……?」
最上がにたりと笑った直後、頼人が景介に襲いかかった。真っ直ぐに伸ばされた拳が景介の顔面すれすれのところで止まる。凄まじい速さだ。先ほどのものよりもずっと速い。
「大抵劣勢になると防戦一方になったり、焦って自滅したりするもんなんだが……アイツはその逆をいく」
ルーカスは頼人を見て絶句した。彼は笑っていた。いつもの爽やかで朗らかなものとは違う。狂気じみている。背筋が凍る。あれが頼人か。
「追い込まれれば追い込まれるほどにキレが良くなっていく。より一層楽しみ出すのさ」
リードしていたはずの景介が時を経るごとに追い込まれていく。主審の「止め」の指示で二人が離れた。
居ても立っても居られず、声を張り上げてエールを送る。しかし、彼は喜ぶどころか悲愴 な面持ちでルーカスを見た。心がざわめく。なぜそんな顔をするのか。
「始めっ!」
審判の合図で試合が再開される。けれど、手も口も動かない。自由なのは目だけだった。
「そろそろくるか……?」
最上が呟 いたのと同時に試合が大きく動いた。後退する景介に向かって頼人が真っ直ぐ突っ込んでいく。景介は体を横にスライドさせることで避けようとした。
――が、それを阻 むように頼人の腕が伸びる。鎖骨 から首の辺りに触れた。思った時には既に景介の体は崩れていた。畳の上に転がる白い肢体。追い打ちをかけるように向けられた拳はしっかりと景介の顎 先を捉えていた。直後、再び大歓声が巻き起こる。
「あれは投げだ。決めれば3ポイントも入る。言っちゃえば武澤の必殺技だな」
魅せられていた。息をするのも忘れるほどに。慌てて呼吸をして咽 返る。
「お、オレあんな凄い子と友達に……」
「ああ! そうだそうだ。君、武澤の友達なんだよね」
「あ、はい! 一応……」
「じゃあさ、武澤が一般入試にこだわった理由とかも知ってたりする?」
「……えっ?」
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