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27.疑惑の沼

 瞬間的にルーカスの表情が引き()る。 「彼、頼人(よりと)に抱かれながらキミの名前を呼ぶそうだよ」 「やっ、止めてください。冗談キツいですよ――」 「頼人から聞いたんだ」 「先輩に? タケちゃんが……?」 「ゲイと話すの僕とが初めてだったみたいでね。それでまぁ、気が緩んだってところかな」  ――理解・共感を求めて。有り得ることだ。同じ立場であったのなら。正直なところ口を割らずにいる自信はない。  納得しかけたところで思い浮かんでくる。頼人の下で嬌声(きょうせい)を上げる景介(けいすけ)の姿が。刻まれる(しわ)。滴る蜜。熱に浮かされたような虚ろな瞳で彼は呼ぶ。 『ルー……はっ! ……ぁンッ!! ルーぅ……!!』 「~~~っ!!!」  全身が熱くなっていく。鼓動が早まり呼吸すらままならない。 「頼人は身代わりでも良いと思ってる。景介のことを愛しているから」  頬を撫でられる。全身の毛が逆立つ。吐き気すら覚えた。 「だからこそ迷いがない。その偽りの愛を守り通すためなら何だってやってのけてしまう」  首を傾げて(とぼ)けたふりをする。すると瞬く間に距離を詰められた。照磨(しょうま)の吐息がルーカスの耳孔を(くすぐ)る。 「やっ……」 「ふふっ、このままだとキミ間違いなく潰されるよ」 「はっ……? ははっ、そんなこと……」 「頼人の優しさは全部ニセモノ。後々キミを(おとし)めるための布石さ」 「……っ」  否定しなければ。思うのに声が出ない。元友人達に交じって頼人までもが(わら)い出す。寒い、痛い、苦しい。(すが)りつくようにカメラを握り締める。 「キミがすべてを終わらせるんだ。すべてを……ね」  ――放課後。駅に着いたところでルーカスは(おもむろ)に切り出した。景介の最寄りまで一緒に行きたいと。話し足りないからなどと取ってつけたような理由を添えて。 「今も三鶴(みつる)なのかな?」 「いや、今は横川(よこかわ)に住んでる」 『横川』  東京三多摩(さんたま)地区の中心地。商業施設やオフィスビルが建ち並び、頭上ではモノレールも走る。近未来的な景観を持つ都市だ。 「親父の勤め先が変わった関係で小6の秋頃から」 「ん? むむむっ……??」  頼人が待ったをかける。 「お前、そこの段小(だんしょー)に通ってたんだよな?」 「ああ」 「で、中学は横一(ヨコイチ)」 「ああ」 「じゃあ、段小を卒業するまでは横川からここまで――」 「いや」 「「へっ?」」  頼人とルーカスの声が重なる。そんな二人を前に、景介は顔を俯かせた――。

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