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68.注ぎ注がれ(★)

「ハメ撮り以外なら何してもいいから。……だっ、……だから……っ」  思考を掻き消すほどの鼓動。尋常(じんじょう)ではない渇きに視界が明滅していく。 「……っ、ははっ……ケイ……ダメだって……」  景介(けいすけ)の手を取り自身の胸の辺りに触れさせる。 「壊れちゃうよ」  鼻を除いたすべての顔のパーツが垂れ下がる。景介は苦笑を浮かべると、ルーカスに(なら)うように手を取り自身の胸へと(いざな)う。力強くもけたたましい鼓動を肌で感じる。 「俺なんかもうとっくだ。とっくのとうに壊れてるよ」  ――それから数分後。ルーカスは透明なローションがかかった景介の後咥(ごこう)にキスをしていた。口にしても問題はないが、これといって味がするわけでもない。例えるなら無味の水(あめ)。口を動かすごとに粘っこい音がする。 「あっ! んッ……あっ、……ひっ……」  大きく音を立てながら穴やその周辺を()め、吸い上げていく。その度に景介の体が跳ねた。与えられているのだ。快感を。こんな自分でも。実感した途端光が差し込んできた。目指すべきビジョン。それがより明瞭になったような気がする。 「る、……はぁっ……それ、もういいから、はやっ、く……っ」  (うなず)きながら小指を(あて)がう。 「うぁっ! あっ……!」  想定よりもすんなり入ったが痛みは相当なものであるようだ。中断しよう。指を引っ込みかけたところで待ったをかけられる。 「ケイ……」  潤んだ瞳。背に回された脚からは並々ならぬ覚悟が伝わってくる。 「……わかった。ごめんね」 「謝ン、な」 「……ありがとう」  一層丁寧に彼の体を開いていく。  ――受け入れてほしい。  精神だけでなく肉体も。そう懇願するように。 「ルー、もう……入れろ」 「え? でも、まだ……」 「いいから、コンタクト外して早く……っ」  言われて(ようや)く気付く。慌てて外すと直ぐに手が伸びてきた。 「綺麗だ」 「そんな……。ケイの方がずっとずっと綺麗だよ」  黒い瞳は夜空のように深く、瞬いている。景介は吐息まじりに笑うとルーカスの肩から両脚を下した。 「っ!!!」  眼前で股が開く。大きく。余すことなく。全部。 「ふぁっ!?」 「お前っ……散々舐め回しといて」 「あ゛っ!! いや……そうなんだけど!! そうなんだけどね!!?」 「だけど、何だよ」 「何っ……でだろうね?」 「あ……?」 「ん~……はははっ、さっきのはその……オレ主導だったから……かな?」 「へぇ……?」  咳払い一つに自身のペニスを宛がう。 「……愛してるよ、ケイ」 「俺も。……ぐぁ゛ッ! ……あっ……ッ!」  (もだ)える景介。ルーカスの顔も歪んでいく。しかし、引くことはない。景介から求められない限りは。絶対に。 「あっ! あっ……はぁ……ッ」 「はぁ……はぁっ……あっ、あれ……?」  中ほどに差しかかった辺りで止まってしまう。心が許しても、体が――景介の男としての本能がルーカスを拒んでいるのだ。焦りと悲しみで表情が暗く、例の嘲笑(ちょうしょう)までもがこだまし始める。拠りどころを求めて彼の名を呼ぶ。 「けぃ……っ、けい……っ」 「ハァ……ッ……、る……ルー……、るぅ……」  上擦った声で呼び返される。呼ばれ呼ぶ声をよすがに力を振り絞る。 「あぐっ!? あっ、アぁッ……!」  ――突破した。 「あっ、はっ……! はいっ、てく! 入ってくよ!!」 「っ!」 「ねぇ分かる!? 分かるかな!?」 「~~~~っ!!!!」  景介の顔がこれ以上ないほどに赤く染まっていく。 「あ゛っ……。……ごっごごっごめん!! オレっ、オレ……っ!!」 「……いいよ。お前が、ぃっ、……なら」 「よっよよ良くない良くない! そんな趣味ないから!!」 「そう、なのか……?」 「そっ、そうだよ! そうだからね!?」 「…………」 「う゛っ……」  疑惑の(もや)は晴れない。景介は自身の下腹部に触れると、ほぅと小さく息をついた。 「……分かるよ。お前の熱くておっき――」 「いっ、いいいいいいいいいいい!! そういうのいいから!!」 「あっ、……ハァ……ハァ……ッ、全、部……入ったンじゃないか? なァ?」 「~~っ」  居た堪れない。しかしながら、事実すべて収められたのだろうと思う。玉袋が景介の後咥に触れている。繋がったのだ。奥の奥までしっかりと。 「はぁ……っ、……ルー……きて」  促されるまま顔を寄せると前髪、両の上(まぶた)に唇が触れた。温かい。心地いい。  ――これが愛か。 「始めてくれ」 「うん。……くっ……」  ゆっくりと腰を引き、打ち付ける。 「……がぁッ!? ……はっ! ぁ……ッ!」  景介の瞳から涙が零れ落ちた。少しでも痛みを和らげてあげたい。その一心で彼の中心に手を伸ばす。  ――硬さは失われていた。  眉を寄せると頬に触れてくる。白く骨ばったその手で。 「よけ、なこと考え……っ、なくて……いっ、から、もっ、はげ……っ、しくっ」 「だ、ダメっ、だって。これ以上は……」 「~~っ」 「おわッ!?」  乱暴に胸を押される。気付いた時には寝転がっていた。見上げればそこには天井を背にした景介の姿がある――。

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