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お前に手を出したら引裂き、潰し、一滴も残らず平らげ、魂すらも【消去】。
そういえば私はこの話を始めた時に、あちらの世界がどんなものだとか
詳しい舞台については何も話していなかったね。
最初はここまで語るとは思わなかったから、少し情報を整理しようか。
あちらは、私達が住んでいる地球と似たような世界だよ。
天体もほぼ同じで異星からの移住した住人などもいるね。
鬼族の始祖たちもそうなんだ。
他種族もそういった者たちだが、勿論私達と同じような普通の人もいる。
あちらでは【人族 】と呼ばれていたね。
彼らは殆ど私達と変わらない。
性別も男と女のみだった。
《だった?》
鬼族や他の種族と混じり、αやβやΩの性を持つものも出てきたし、両性のものもいたな。
皆が大好きなエルフ族の祖は両性の者だ。
《ワァ!!ピューピュー》
……はぁ、なんでこんなに人気なんだろうな?
そこまで騒ぐ程のものか?
《マリーは夢がない!》
実際に会ってみろ、やつらは本当に厄介なんだからな…
話が飛んでしまったが、鬼族の居を構える皇宮と呼ばれ、私も住んで居たところは、日本の京都のような所にある。
《オオゥ!!》
これもまたどよめきが凄いな。
私が話の当時、鬼族は日本に似た国の【陽ノ本 】と呼ばれる国を支配していた。
人族や【妖族 】と呼ばれるモンスターの種族などに、それなりに自主性を持たせ、適当に支配していた。
《支配なのに適当?》
鬼族の長の皇 はあいつとそっくりで、そのへんはもうなんというか…
『私は忙しい(妻を可愛がるのに)』『そんな暇はない(それより妻を…)』『面倒だ(以下略)』とかそんな事を仰られる方だったのでね。
《ああ、そういえばシュテンの父親はとんでもないやつだったな。》
《リリィの前でもシュテンの母親と致そうとしたもんな…》
……コホン!
あー、それでこれからする話は、その陽ノ本の私達鬼の住んでいた場所、【京 】が舞台で、人族の者たちも出てくる。
こいつらのおかけで、私は予定よりもかなり早く【昇神】する事になった。
まぁ…もとは私も悪いんだけれど。
◇◇◇
最近、朱天 の良くない噂を聞くが、
皇宮にいる時はほぼ僕と一緒に居るし、あいつが外に出るのは|狩りと呼ばれる朱天曰く、
ろくでもない者たちを始末したり、捕まえて飼ったりする為のものくらいだ。
僕も連れて行ってもらったことがあり、
『お前が【昇神】したら、今は茨木 や四童子と行っているこれも二人で出来る。』
そう嬉しそうに話していた。
だからあいつのそんな噂はかなりおかしいし、それに出てくるさらった姫などは、明らかに僕のことらしい描写だ。
一体誰がそんな事を言っているのか?
そして後宮…現在は処分場のそこは確かにかなり寂しくなったらしい。
あいつが食べるのもそうだが、僕もかなり食べるようになってしまったからだ。
今は狩りで捕まえてきた者たちを鬼にして、奉仕させているそうだ。
僕らは人を食べたりしないから、犯罪者をわざわざ鬼に変えてから食べたりする。
だからわざわざ人を食べるのは、噂によるとすっごく不味いらしいので、意味不明だ。
それに犯罪者以外なら、番などに手を出されない限りは、それは掟に反するので、朱天や皇様に制裁を受けることになる。
あの約束から必死になり、あいつの血をより求め、交わり、肉や魂も自分からどんどん摂るようになった。
そのことについて姉も義母たちもあまり良い顔をしなかったが、僕の選んだことを止めることもしなかった。
あいつの妃…番として守られ与えられるだけじゃなく、僕が与えたいと思ったからだ。
あいつに何かを与えてやれるのは僕しかいない。
義母はあいつをデロデロに甘やかすけど、それは母親であるから。
何より義父の番だからやっぱり義父が一番になる。
鬼のΩは番のαにデロデロに甘やかされ、守られて可愛がられるけれど、僕にはそんなことが性に合わないというのもある。
『クソ生意気なくらいがお前は可愛いんだ。』
『猫かぶりよりも生意気なくらいが良い。』
そんなふうに姉もあいつも言う。
だから僕らしく生きていくことに決めた。
お妃なんて柄じゃないけれど、人前では淑やかに振る舞い、
あいつの前では素の自分で居る。
そうすることで大分息がしやすくなった。
相変わらずあいつの血を毎日吐くくらいまで飲んで参るくらい可愛がられている。
僕はΩだから、そんなに強くならないと思っていたけれど、日々びっくりするくらいに、色々な力が規格外になってきてしまった。
そのことも僕が楽に生きれているところかもしれない。
Ωの美徳とされる『弱く、儚く、美しい』。
そんなものは僕らしくないし、あいつの嫁はそんなんじゃ務まらない。
あんな規格外の化け物の番は、同じようなものでなければ無理だ。
最近は【域】で暮らす時間も長くなってきた。
監禁生活に入る日も遠くないかもしれないが、
僕だって好きに外に出たりもする。
姉や茨木や四童子の誰かが付いている事が条件だけれど、
鬼族の里のある山を降りて、京 の市を覗いたりとかも許された。
安定期の頃とかはちょくちょく姉や茨木、たまにあいつと一緒に遊びに出たりした。
姉曰く、『デート』というものらしいがとても楽しかった。
また何度も二人で出かけたい。
制約の多すぎるこいつを楽にして、ずっと笑えるようにしてやりたい。
今の僕は産み月になり、もうすぐにでも出てきそうなくらい、ぱんぱんにお腹が大きい。
流石こいつの子と思うくらいお腹の子は大きいようだ。
あいつは六尺七寸(203cmくらい)もある。
ちょっと産むときがしんどそうで怖い。
僕も滅茶苦茶食べているから、良くなかったのかもしれないけれど、
食べてないと気持ち悪いし、【至】りかけている途中はお腹が空いて仕方がないらしいから、二つの理由でそうするしかなかった。
鬼のαは大きなものが多いけれど、番のΩはそれで皆苦労しているらしい。
僕の実家の【青】の祖でも在る、四童子の一人、星熊 の『運命』で、僕みたいに誘拐されるような形で嫁いだ、もとは人族の男の松 も苦労したって言っていた。
彼は特にそれが顕著でとても辛かったらしい。
元は人族でも武官などを排出する家の出身の彼は、色々と受け入れられず星熊をボコボコにしばいたり、家出したりして暴れまくったらしい。
『それでも治まらないときはございますよお妃様!』と彼に随分同情され、色々と教えてもらった。
因みに四童子は皆が物凄くゴツい。
熊 も星熊も虎熊 も金 もみんなごっつい!
うちの旦那はなんであいつらを抱いていたのか?
それがとても不思議だ。
全員番がいるのにおかしすぎだろ?
後宮に凄い数のΩも納められていたって聞くのに何故なんだ?
(お前ほんとうに不思議だよ!なんでαの男とか抱いているんだよ…)
(『側にいたから?』『壊れない。』とか言って不思議そうな顔をするな!!)
(お前は本当に性欲が異常過ぎだし、あいつらに言わせると性癖もちょっとおかしいらしいぞ?
僕が番になったことで、四童子たちは滂沱の涙を流し、僕の手を握り感謝をしていたから相当だぞ………)
(それに『お前が挿れてみろ』は本当にダメだからな!!!)
寝転んだ僕の頭を胡座の上に乗せて、僕の髪を何房か手に取り遊んでいる朱天。
最近はこんなふうに二人の時間を楽しんでいる。
ちょっと前まではいつもお互いの体を貪ってばかりだったのが、
あれ以来は落ち着いて話もするようになったし、僕が膝枕をしたり、逆に今みたいにこいつがしてくれたりもする。
何もせずに添い寝してくれた日なんて物凄く感動した。
こいつも我慢できたんだと。
ちょっと泣いたのは秘密だ。
僕の髪を梳くこいつを見上げる。
その首もとには、小さいが一輪の庭白百合が咲いている。
僕の【華】だ。
いつかこいつの全身に僕の【華】を咲かせてやりたいが、
縛る条件に悩んでいた。
大きな誓約をつけれるので、こいつの利になるようなものにしたい。
だから未だに贈れない。
それから最近はこいつにこんなワガママも言えるようになった。
「朱天…この子が産まれて落ち着いたら、また市とか一緒に見に行きたい。
お菓子が欲しい!【黄 】渡りのお菓子とか欲しい!!芸人の出し物とかも見たい!!!」
切実にお菓子が欲しい。
口直しが本当に欲しいから。
だって、肉とか魂 は本当にくっそ不味い。
鬼族はあまり一般的な食物が要らないから、そういった嗜好品は市とかで手に入れなければいけない。
いつぞやの干菓子や、厨 で作られるお菓子とかも貴重なものなのだ。
「あんなに騒ぎになったのに懲りてないのか?お姫様は…」
朱天は眉を顰め少し呆れた様な口調だ。
「あの時は偶々だと思う…」
「お前の薫りは猛烈だと言った筈だ。」
少し前になるが、市を見ているときに、人族の権力者らしきものに激烈に迫られ、
人族の少年に助けられたことを怒っているのだろう。
そしてそいつと親しくなったことも物凄く不服らしい。
こいつが僕に付添っていたら、下手をすると市に来ていた者たちを皆殺しにしていたと思うので、
僕も気をつけなければいけないが…
(僕だってまだまだ遊びたい盛りなんだよ!
それに気分転換に少しくらい出たいときもあるだろう?
今度の元旦で十三になるけれど、まだまだ子供なんだからな!
お前が孕ませたから強制的に嫁いだけれど、本当ならもう少しは猶予があった筈なんだぞ…)
朱天はそろそろ生まれるかもしれないお腹が気になるのか、時々優しく撫でる。
「拗ねるな、俺を困らせてくれるな。
あの小僧は縊り殺したかった…フレイヤの護り が忌々しいな。」
色違いの瞳には危険な光が宿っている。
(お前のそれは恐ろしいからやめろと何度も言ったよな?
僕の友人を殺したりしたら、同衾はしばらく無しだぞ!)
「姉様も僕に友人が必要だって言ってくれているし、
綱 はそんなやつじゃないよ。
茨木に一目惚れしたみたいだし。」
「それでもお前に近づくものは皆 全て排除したくなる。
あれも『彼方 』から来て、こちらとは違う価値観で生きている。
お前や男のΩ などには多分興味を示さんから許すことにした。」
そこで一度区切り恐ろしいことをさらりと告げた。
「だが、もしお前に手を出したら引裂き、潰し、一滴も残らず平らげ、魂すらも【消去 】。」
「ヒィッ!」( コ ワ イ ! )
なんの抑揚もない淡々とした口調で語られたそれ。
恐ろしいまでの美貌と相まって本当に コ ワ イ !
随分慣れたがこいつの時々出すこんな一面はまだまだ恐ろしく怖かった。
(うちの夫はとても怖いです。
えぇ本当に。
実際にしたことがあるからね?)
(僕を見て盛った下級の鬼や下僕などを物凄い方法で惨殺した。
もう物凄い方法で。)
(以来、鬼の中で僕に手を出すやつは居なくなったけれど、お義母様に滅茶苦茶叱られてた。
相変わらず『このアホ!』とか言われているのに、反省とかが一切無くて不思議そうな顔をしていたから、余計に怒られていた。)
僕の頭を優しく優しく撫でながら、言い聞かせるようにそれを告げた。
「友が大事ならあれにも強く言っておけ。」
「…う、うん。」
僕がぎこちなく頷くと整いすぎた顔をにっこりとさせ笑った。
だが目の奥には仄かに危険な光がある。
こういう発言のあとにその表情は物凄く怖いから止めて欲しい。
そして嫁の我儘を許容できる旦那になって欲しいと切に願った。
僕は生まれて初めて出来た友人の不思議なやつ。
綱との出会いを思い出した。
◇◇◇
《生まれて初めて?!》
鬼族のΩは物凄く大事に育てられる。
私と姉は『【青】の双璧』と言われるほどの美貌で知られていたから余計にだね。
ある理由から軟禁状態で厳しい教育を課され育てられた。
教育係などはいたが、友と呼べるものは全く居なかった。
こちらの昔の姫君とかもそうだろう?それと似たようなものだ。
彼に出会い、友人となれたことは本当に良かった。
それまでは生家では軟禁、あいつに嫁いだらベッドルームに監禁になったから、視野などがとても狭かった。
……茨木が当初は大変困っていたが、彼は百合 の大切な友人になった。
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