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第3話【保険適用 1】

 バンシーは、妖精だ。性別は女のみ。  見た目は人間と似ているけれど、れっきとした他種族だ。  そんなバンシーだが、普段は人間と同じように生きていける。現に鷭とは同じ高校を共に卒業した。そのくらい、普通の友人感覚。  だが、一つだけ大きな特徴がある。  ――人の死を、叫び声で予告するのだ。  そう言っていたのは鷭だったか、それとも別の誰かだったか……薄れゆく意識の中、俺は何でかそんなことを考えていた気がする。  目が覚めた時、見覚えのある天井が視界に入ってきた。  ――けれど、自分の部屋ではない。  何だか気味の悪い感覚に、俺は視線を泳がせた。自分の部屋ではないと分かっているけれど、やはり見覚えがある。  ――たぶん、俺が通院している総合病院だ。 「……ぁ、あー……っ」  掠れているけど、声は出る。目も動くし、病院独特の匂いもした。  ――なのにどうしたことか、体には何も感じない。  横たわっている筈なのに、背中から何も伝わってこないのだ。毛布だって掛かっている。なのに重くもなければ軽くもないし、寒くも暑くもない。  さて、あまり動じることがないと友人に言われている俺だが……さすがに状況が状況だ。こう見えて、かなり動じているぞ。  そんな時だ。 「……し、失礼、しま……す」  俺以外に誰もいなかった寂しい病室の扉が開き、誰かが入ってきた。  ――訪問者にも、見覚えがある。 「……先、生」  そこに立っているのは……他種族の医者だ。一応言っておくが、腱鞘炎の先生ではない。正直あまり関わったことがないけれど、見たことはある。  ――目を惹かれる綺麗な容姿だからだ。 「あ、お、お目覚め……ですか……よ、良かったです……っ」  動く度にキラキラと何かが舞い、それでも真っ赤な瞳でこちらを見ている先生はゆっくりと俺に近付く。 「えっと、えっと……どこか、違和感は?」 「違和感しかないです」 「で、ですよね……っ」  俺は確か、腱鞘炎を診てもらう為にこの病院へ向かっていた筈だ。  なのに今……俺はベッドに横たわっている。当然、意味が分からない。  ぼんやりとする頭をグルグルと動かして、意識を失う直前の記憶を掘り起こす。  確か、そう……鷭の叫び声を聞いて、それで……? 「や、山瓶子麒麟、さん……今から話すことを、よく聞いてくださいね」  おぉ、説明してくれるのか。それは助かる。……なんて思うくらいには記憶が曖昧だ。渡りに船とはこのことか。  先生は俺が横になっているベッドのそばに立つと、後ろ手に持っていたらしい一枚の紙を見せてきた。 「三日前、貴方が契約した『【種族・人間限定】死後生命保険』ですが……契約したその日に、貴方は交通事故で死にました。な、なので、その……保険が適用されて、えっと……貴方は今、リ、リビングデッド……です」  備えあればなんとやら、というやつか。  ……と思える余裕が、その時の俺には無かった。

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