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第7話
「の、ど……」
「ほら、水だ」
いつの間に用意していたのか、ベッドサイドからグラスを手に取り、シオンが僕に水を飲ませてくれた。すると一気に喉が癒えた。一息ついた僕は、力の入らない体を必死に起こそうと試みる。しかし無理で、僕は再び寝台に沈んだ。
「無理をさせてしまったな」
「ううん……」
実際には、確かに無理をしたとは思う。だけどそれ以上に、シオンと一つになれた事が、とても嬉しい。だから僕は、両頬を持ち上げた。シオンはそんな僕を見ると、優しい顔をした。
シオンが処理をしてくれたらしく、僕の体は綺麗になっていた。その後僕達は、ずっと寝台の上で雑談をしていた。
「悪かったな、本当に」
「謝らないで。僕は、嬉しかったから」
「――正直な話、ずっと嫉妬していたんだ」
「え?」
「スカイに」
「どうして?」
「バリタチだと豪語しているのを聞いた事があった上に、お前と同じ方角に、一緒に帰った事があるだろう? その姿を見た記憶から、関係を勘ぐっていたんだ。家が同じ建物だとは思っていなくてな」
確かに僕はたまに閉店まで『苔庭のイタチ亭』で過ごすので、そういった日にスカイが早く上がった場合、共に帰宅する場合もある。見られていたというのも驚いたが、何より嫉妬……僕は、そんな場合ではないのだろうが、喜んでしまった。
「僕とスカイは何でもないけど、その……そんなに僕の事を好きでいてくれたの?」
「ああ。何度告げても言い足りないくらいに、愛しているんだ」
「僕もシオンが好きだよ」
それから僕達はキスをした。
そうして――一度、それぞれ入浴してから、僕達はその夜も、食事の為に、『苔庭のイタチ亭』へと向かう事に決めた。
「いらっしゃいませー!」
ノエリオ君が最初に声をかけてくれた。
「おう、ロイス」
続いてスカイがこちらに気がついた。そうして僕とシオンをそれぞれ見ると、楽しそうな顔になった。ニヤニヤしている。するとシオンが僕の手を急に握った。そして目を細めてスカイを見た。結果、スカイが吹き出した。
「俺とロイスの関係は、誤解ですって。えっと、どうぞ、好きなお席に」
「――今日からは、ロイスの隣に座る」
それを聞いて、僕は赤面してしまったので、顔を隠すように俯いた。座るとすぐに、ウィルが注文を取りに来てくれた。僕はいつも通り、ブランダードを頼もうと思ったのだが、僕が伝える前に、それをシオンが注文した。
「いつもこれを食べていただろう?」
「うん。知ってたの?」
「毎日見ていたからな」
その後、他の料理もシオンが注文した。そして僕は、本日はアルコールを頼む事にした。結ばれて一夜開けた、特別な日だからだ。紅苺や黒苺と発泡性の葡萄酒で作られたミックスベリーのカクテルが、すぐに届いた。シオンはジンベースのカクテルを注文したようだった。
「乾杯」
シオンの言葉に頷いて、僕は笑顔でグラスを合わせた。
「お前の笑顔が俺に向くようになって、すごく幸せだ」
「それ、僕の台詞だよ」
「そうか? 俺は……確かにロイスを見ると照れそうになってしまって、隠すために硬い表情をしていたかもしれないが――ずっと心の中では舞い上がっていたんだぞ?」
冗談めかしてシオンが言う。それが擽ったく思えて、僕は小さく吹き出した。
その後届いた料理を食べていると、スカイが外套を羽織って出てくるのが見えた。
「どこか行くの?」
「サボり――あ、いやその、麦酒を買いに、ちょっとな」
スカイはそう言って笑うと、僕達を交互に見た。
「お幸せに」
……僕は頷く。実際、今が幸せだ。
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