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第1話
「えっと……」
「何、こんな所に呼び出して」
相手はすこぶる機嫌が悪そうだった。だから呼び出したはいいが、何からどう言えばいいのかをためらってしまいがちになる。
ためらっているほうの男は東山刹那(ひがしやま-せつな)・高校三年生だった。そして呼び出されたのも同じく高校三年生の秋野健太(あきの-けんた)だった。
呼び出したほうの刹那は図体だけはデカいが何につけてもはっきりせずに流されるタイプと言おうか、はた目からみると何がしたいのか意味不明なこともままあるような、よく分からない男だった。
呼び出しれたほうの健太は江戸っ子のチャキチャキタイプで何事もキレが命なところがある、ちょっと小さめ男だった。顔は両者黙っていればそれなりに見える。だがそれに言葉が加わると、どちらもちょっと突出している部分があるので普通の男だと思って付き合ってはいけないと言う注意事項付きの男たちだ。
「俺たち、付き合わないか?」
「はっ?」
「だから、俺たち」
「お前はバカか。俺、男。お前も男。付き合ってどうするんだよっ」
「そりゃデートかと、エッチとか……」
とたんにモジモジし出す刹那にカチンときた健太は、その尻をバシッと蹴り上げた。
「痛っ!」
「寝言は寝て言えっ!」
「寝言じゃねぇし。俺、ほんとに健太とそういう仲になりたいって思ったから」
「こんな切羽詰まった時期にか!?」
「今じゃなきゃ、もうチャンスないじゃん」
「そりゃ、そうだけど……」
二人は今、高校の体育館裏にある倉庫の裏でそんな話をしていた。
時間は午後一。時期は二月。
そろそろ三年生はわざわざ学校に来なくてもいい時期になっている。
人気のない場所はここしか思いつかなかったから「体育館裏の倉庫裏で待つ」と連絡を入れて呼び出した。それが悪かったのか、健太は端から喧嘩腰だ。
「お前さ、何で今言うの! 三年間いつでも言えたっていうのに!」
「……いつでも言えたから、いつでも言えなかったんじゃないかっ」
それくらい分かれよ、とばかりに言うとそれを分かってしまった健太は刹那同様ドギマギしだしたのだった。
高校に入ってから三年。最初から顔を合わせている。
部活は帰宅部だったので遊びたい放題だったが、それに伴う金がなかったので週三日はバイトしていた。お陰で正社員にならないかと今は誘われるほどだが、進学するので数年後なら考えると伝えてある。
ふたりは同じ場所でバイトをしていた。
ごはんがたらふく食べられる外食店だ。外に出ての接客ではなく厨房での調理だったので重宝される。三年間学んだものを店主も手放したくないのだ。それをふたりともよく分かっているので、後数年したらと言っているのだった。
「お前さ、何かの行事みたいな感じでこれ言ってるんだったら馬鹿野郎だからな」
「違うよ。俺はただ」
「あー、分かった。高校生活最後だから校内で告白したいとか思ったんだ」
おあいにくさま、と鼻で笑われた。
「じゃあ、答えはバイトが終わってから言ってやるよ」
「ほんとに?」
「ああ」
そう言ってもらえて嬉しいのが上回ってしまい、答えがノーとは絶対に思わなかった。だから言われた通りバイトに出向いたのだが、バイトが終わって気がついた。
「あいつ、今日休みじゃん!」
シフトを見て気がついた次第で、こうなると答えが聞きたくて仕方なくなる。
「今からあいつの家に行こ!」
思い立ったらすぐ行動。刹那は自転車に跨って健太の家まで突っ走ったのだった。
〇
マンションのエントランスをクリアするとドアベルをピンポンと一回鳴らす。そして相手が出てくるのを待ったのだが、反応がなくてムッとした。
「絶対いるに決まってるのに」
親が遅くてこの時間はまだひとりでいるのを知っている刹那は、健太の家の前でLINEをしてみた。すると大きな着信の音が中から聞こえてきているのが丸分かりになってしまった。
「こら、健太! 出て来い! ちゃんと返事を聞かせろ! 約束だろ!?」
すると仕方なくと言った具合でドアが開き、仏頂面をした健太が顔を出した。
「居留守使うな」
「……」
「中に入れろよ」
「いいけどさ」
いつもとは違う雰囲気が二人の間に流れて、気まずさMAXだった。
「お前、何で嘘ついたんだよ。今日シフト入ってなかったじゃないか」
「俺にもちょっとは考える時間くれよ」
「ぇ、そういう意味?」
「うん、まあ。あの時はそう言ったけど、これからだって付き合って行くわけじゃん? そしたら少しは考えないと」
「えっ、何それ。断ったら俺が可哀想とか思っちゃうとか?」
「そこまでとは言わないにしても、これから付き合う相手とかの話になるとどうなのかなって思っちゃって……」
「ま、まあそれは……」
「だろ? お前だってその辺考えてくれないと」
「あー、ごめん……」
「いいけどさ」
「……で、結果はどうだ?」
「お前はどうよ。どっち側の人間になりたいわけよ」
「どっちって?」
「したいのか、されたいのか」
「……どっちでもいい。お前のしたいほうをお前がして、そうじゃないほうを俺がする。別にあれが嫌、これが嫌と言うことはない」
「だったら注入とか插入しちゃっても全然構わないわけ?」
「お前が望むなら、俺はそうでも全然いいと思ってる」
「痛くても?」
「お前なら痛くならないようにしてくれると信じてるから」
「うーーん。そう言われるとな……」
腕組みをしてしまった健太に対し、刹那は拝むように両手の指を絡み合わせた。
「駄目と言わないでくれ」
「……でも自信がない」
「自信なんていらない。いるのは貫く意志だ」
「うん。まあそうなんだけど……」
「俺は多少痛くても大丈夫だから。それより健太と繋がりたい」
「ぇ、なんて下品な」
「でも事実だ。俺は健太を今のまま手放したくはない。健太は俺を見捨ててどんどん大人になっていくのか?」
「そうじゃないけど……」
「だったら迷うことはない。俺を好いてくれ」
「好いてはいる。その点は安心しろ」
「だったら」
「でも体の関係はな……」
渋る健太に刹那は業を煮やして抱きしめた。
「これまでのお前も、これからのお前も全部俺にくれっ」
「おーー」
なんて凄いことを言うんだ……と関心する健太に抱き着いたままキスをする。
「んっ……んっ…ん……」
「ふぅぅ…ぅ…うう……」
「んっ…んっ…んんんっ……」
その間に体を密着させて脚を絡めて股間を擦り付ける。最初は刹那からだけだったのに、次第に健太からの密着も激しくなって、最後にはふたりして床に寝ころんで絡み合っていた。
「んっ…んんっん…ん」
「お…まえ…いつからこんなこと…考えてたんだよっ……」
「分からないよっ……。気がついたら……。健太ともっと一緒にいたいと思うようになってたんだ。そしたらもっとお前を知りたい。もっとお前を欲しいとか思うようになって……」
「お前おかしいぞ。俺もおかしいけど」
クスッと笑われて全て悟った。つまりOKと言うことだ。
「どっちがしたい?」 刹那はまた聞いてみた。
「俺は入れられるのは知らないから入れるほうがしたい」
「いいけど。お前って入れるほうもしたことないだろ? 大丈夫?」と相手の顔をのぞき込むとコツンと頭をこつかれた。
「失敗してもいいだろ? 最初からうまく行くとか思うなよ?」
ちょっと不安そうに言う健太に「うんっ」と優しく答える。微笑む刹那の目尻には、ちょっとだけ光るものがあった。それを指で拭い取ると今度は健太のほうからキスをしてきた。
「バージンやるんだからな。ありがたく思えよ?」
「うん」
本当は刹那のほうが決心のいる行為だと思うのだが、それを諸ともせずにクリアしてしまう。それほど一途と言おうか。相手しか見えていないと言おうか、幸せ者だった。
これから先はお互いに未知の世界だった。見聞きして知ってはいても実際にはしたことはない。
「だったらまずは風呂、入ろうぜ」 家の住人である健太が誘う。
「うん」
それに答えると手を引かれて浴室まで歩いた。随分積極的だな……と思っていると、それはまだ日常の範囲内の行動だったのに気づく。
浴室にお湯を入れながらお互いに服を脱ぐ。
「そういう目で見るといい体だな」
健太がジロジロと刹那を見ながらそんなことを言う。
「そういう目?」
「そう。今からするぞって目で見ると」
「微妙~。俺はそういうのついぞ感じない」
「お前から言ってきたのに?」
「それは……そうだけど……」
「体、洗い合おうか」
「いいけど?」
「じゃ、来いよ」
「ぁ、うん」
モクモクと湯気が漂う浴室に入り込むとシャワーを浴びせ合いボディソープで撫で合う。ニュルニュルとした感触に湯気の漂う中、だんだんその気になっていくのだった。
「ぁ……」
体の変化に互いに気づく。
「そろそろ上がるか」
「いいけど、風呂には入ろうよ」
「どうせ入れたんだからな」
「うん」
勃起している互いのモノをベッドでしごき合い一度開放させてからの行為だった。
ジェルと言うものがなかったのでキッチンから食用油を拝借してきて刹那の場所を解しにかかる。指にほんの少し油を垂らして刹那のソコに差し入れる。ゆっくりと抜き差ししながら本数を増やしていくのだが、刹那はその間自分の脚を開いて抱えながら股の間から見える彼の姿に不思議なものを感じていた。
「痛いか?」
「いや……」
「これ……どのくらいやるのかな…………」
グイグイ差し込まれたりして腰が揺らぐ。
「分かんないな……」
「おまえ、俺より図体デカいから俺の入れてもそんなに大したダメージじゃないよな?」
「それ、関係ないと思うよ。さっき触ったじゃん? っ……ぅぅっ……ぅ」
小さくなかったもんっ……。
そう言いたかったのだが、ズブズブ具合が半端なくて声が上ずる。
「あっ……ぁぁっ……んっ。んんっ……ん」
「あ、いい感じ?」
「うんっ。ぅぅ……ぅ」
「じゃあさ、そろそろ?」
「うん。も……大丈夫だからっ……ぁ……」
だから早くして!
腰をくねらせて相手を誘う。それに気づいた健太が目を細めて半勃ちのモノをしごいて奮い立たせるとゴムを被せる。
「一気に貫いて……いい?」
「うん。グンッと奥まで突っ込んで欲しい」
「……じゃ、遠慮なく」
心構えができると同時に、健太のモノが秘所にあてがわれてグググッと押し込まれる。
「あああっ……! ぁ……ぁぁっ……ぁ」
「あーーーっ……。なんか……おまえの中、熱いな。いい具合に熱いよ」
「ふぅぅぅっ……ぅ……ぅぅっ……ぅ」
「ケツの中って……こんな感じなんだっ……!」
言う健太の顔は恍惚としていた。そしてそう言い終わるとともに激しく腰を打ち付けてくる。それに対応しながらも、間近に見られる彼の表情に酔っていく自分がいた。
「あっ……あっ……あっ…………」
「どう?」
「すごく……いいっ……!」
「大きさとか太さとか?」
「ぅ……うんっ……。長さとか……も」
「奥まで突けてる?」
「うんっ。いいっ。凄くいっ……!」
「じゃあさ……。俺が寝て、おまえが上から跨るってのはどうよ」
「ぇ……えっ?」
言っている意味が分からなかった。声を出しながら解釈をしている間に手を引っ張られて立ち位置が逆になる。つまり寝ている健太に大柄の刹那が跨って自らの重さで自らを満足させ、尚且つ相手も満足させる行為をしろと。
「あっ……」
「腰、くねらせてしごけよ」
「ぁ、うんっ……。ぅっ……ぅぅ……うっ……」
「ぁぁぁっ…………。いいっ……」
「いい?」
「ああっ」
それから先は貪り合うように互いを欲した。
してしまうと、それは思っていたよりも簡単で。回数を重ねれば重ねるほどに二人ともしたいとか思うようになっていた。
「これはマジで危ないヤツかもしれんっ!」
「なにが?」
「俺、お前ともっとこんなことがしたいとか思っちまってる」 困ったように健太がそんなことを口走る。
「え、いいじゃん」
「いやいや。これは社会道徳的には駄目なことだと思うぞ?」
「でも社会道徳ってヤツは俺たちの目の前には見えないから」
「……」
「形のないものに囚われるなんて、健太らしくない」
そう言われて「それもそうだ」と吹っ切れたように口にする健太を眺める。するとまた執拗に抱きつかれて触られて舐められて欲張りな行為が始まる。
「終わらないよ」
「いいんだよ。もう一回。なっ、いいだろ?」
「うん……」
もう一度。それはいつ終わるのか分からないほど満たされた行為だった。
終わり
タイトル「知れば知るほど」191017/1225
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