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第1話

 俺さ、俺様生徒会長だとか言われてるけど実は腐男子で特に王道物が好きなんだけどさ。アンチ王道物の会長リコールについてずっと不思議に思っていることがあったんだ。  なぜ、あの会長は真面目に仕事をしているのにリコールされてしまうのか。  小説ではアンチに惚れた役員達が邪魔な会長を蹴落とすために噂を流して、とかあるけれど、実際はそんな、根も葉もない噂を易々と信じるわけがないと思うのだ。俺は。  だけれど、今この瞬間、それは一般な感覚の話であってほとんどが異常な感覚を持つここでは通用しないのだとようやく理解した。 『生徒会長、あなたを、リコールします』  全校集会にて目の前に突き出されたその書類。間違いなくリコールのもので、署名は充分集まっている。俺の信用はそんなものだったんだろうか。  司会の副会長から、最後の一言をどうぞ、だなんて嫌味ったらしく言われてしまったので仕方なく壇上に上がる。すると、本当に噂を間に受けているらしい生徒たちからは罵詈雑言の数々。俺が腐ってなければ完全に精神崩壊していただろう。  だが、もう一度言わせてもらう。  俺は腐男子なんだ。 『さて、最後の一言だなんて言われたからにはこの場で言いたかったことを言わせてもらおう。』  嫌そうな顔をする風紀に頼み、後ろのスクリーンを下ろしてもらいプロジェクターに予め持ってきておいたUSBを接続。スクリーンに映るのは、俺がずっと籠っていた生徒会室だ。 『一般生徒達は知らないかもしれないが、生徒会室にはカメラがついている。何故かと理由を問うのなら″人気で選ばれた生徒がサボりをしないため″だろう。』  ちらりと役員共を見てみると、顔を青くしている。そりゃそうだ、だって、今ここでその理由通りカメラが力を発揮するのだから。 『今回はリコールの非正当性を訴えるため、直接理事会に請け合って録画画像を貸して頂いた。』  転入生がやって来てから約一二ヶ月の間の録画を早送りしながら流す。  中に映るのはほとんど俺のみで、書類に埋もれながらも必死にやっていたその頃が思い出される。 「そんなの嘘だ!! ニセモノだろ!!」 「そ、そうですよ! 私たちは仕事をしていました!」  ざわざわと生徒たちが話す中、転入生と副会長が声をはりあげた。  偽物、ねえ。 『今俺が、理事会から貸して頂いた、と言ったのが聞こえなかったのか? それを偽造して何になる。理事会相手に子供の偽造がバレないわけがない。そうなれば困るのは俺自身だ。そんなことを俺がすると思うのか?』 「だって、雅紀たちはちゃんと仕事してるって言ってた!!」 『言っていたから、なんだ。その証拠はあるのか? なんなら今から生徒会室を見に行くか? 俺だけであの仕事が終わるわけもない。まだ書類だらけだ。なあ、お前たちはそこまで堕ちたのか』  最後は役員たちに向けて告げる。  俺は腐男子だ。こうなる展開も、初めの段階から読めていた。こうなる前にリコールなりなんなりして防ぐことも出来た。  なら、なぜしなかったのか。 『俺は、お前たちが戻ってくることを信じていた。書類に追われている俺に気付いて、身を改めてくれるようにといつも願っていた。だが、その結果がこれだ。信じていた俺が馬鹿みたいじゃないか。それに、生徒たちも。お前たちは役員共の嘘に惑わされて俺がセフレと遊び放題だとか思っていたらしいが、実際にやっているのか確認してくれた奴は1人でもいるのか? なあ、俺のことを信じていてくれたやつは一人もいないのか?』  段々と、視界が歪んでくる。  一言にしては長すぎるな、と思いつつも最後なのだからいいじゃないかと言い訳する。 『俺は、お前たちの投票によってこの生徒会長という座に立った。お前たちの学園生活を支えるため、お前たちの期待に沿うために今までやってきた。俺のしてきたことは、無意味だったのか?』  じわりと浮かんだ熱い液体が零れそうになる前に俯き、1度袖で拭った。 『まあ、いい。もう終わったことだ。リコール自体は非正当なことが伝えられたと思うが、俺はもうお前たちのことを支えることが出来ない。この場を持って、生徒会長を辞めさせてもらう。身勝手で本当に済まない、あとのことはお前たちで自由にやってくれ』  壇下ではキャーだの嫌だの聞こえるが、この結論を覆すつもりが俺にはなかった。  マイクを副会長に返す時、また嫌味が飛んでくるかと身構えたものの意味はなかった。  役員共は皆項垂れ、一人意味がわかっていないらしい転入生だけが騒いでいる。生徒たちも泣き崩れているやつもいるようで、大混乱だった。  そんな周りは気にせず、唯一俺のことを知ってくれていた幼馴染の生徒会顧問のもとに行く。 「よく頑張ったな」 「ああ......本当、馬鹿馬鹿しいよな」  笑ってみせたものの、幼馴染は顔を歪めて俺を抱き締めた。 「もう、頑張らなくていいからな。あんな奴らのために、疲れなくていいから......」 「......最初から、こうなるって予想出来たのに踏ん切りつけなかった俺がダメだったんだ。お前にも、迷惑かけてごめんな」  わざと俺が明るい声を出していると見抜いた幼馴染が抱きしめる力を強める。 「っ、泣けよ......!」  耳元でそう言われると同時に、この一二ヶ月に溜め込んだ箱が完全に壊れ、溢れ出して行った。  始めに小説でリコールされる会長がなんだの言っていたが、俺はただ、俺の仲間は、仲間だったあいつらは違う、きっと戻ってきてくれると信じていたかっただけなんだ。生徒達だって、真実に気付いて阻止してくれる、と。  結果は、惨敗だったけども。  ああ、本当馬鹿馬鹿しい。

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